東京大学(東大)先端科学技術研究センターの大澤毅特任助教、児玉龍彦教授らの研究グループは、東京医科歯科大学の澁谷正史 客員教授(東京大学名誉教授)と共同で、ヒストン修飾因子の一種であるヒストン脱メチル化酵素「JHDM1D(KDM7A)」が、栄養飢餓状態の腫瘍組織において、腫瘍血管新生を制御し、がんの増殖を抑制することを明らかにした。同成果は「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」(オンライン版)に掲載される。

固形がんの中心部は、低酸素や低栄養状態に陥りやすく、その状況をがん細胞自身が克服することが増殖や進展に不可欠だが、これまでそのメカニズムは不明であった。そこで今回の研究では低酸素、低栄養を模した培養がん細胞の解析からJHDM1Dを見出し、その役割を培養細胞とマウスで解析し、JHDM1Dが腫瘍増殖期に必須である血管新生と同調し、腫瘍血管新生を制御することを見出したという。

腫瘍血管新生の制御は、低酸素によって誘導される血管内皮増殖因子とその受容体が主要な役割を果たすが、低栄養および栄養飢餓状態における腫瘍血管新生の制御機構は不明であった。

また、JHDM1Dについては、精神疾患に関与する遺伝子として報告されているががんにおいてどのような役割を果たしているかは不明であったが、今回の研究により、JHDM1Dが、低栄養下で腫瘍血管新生および腫瘍促進に寄与すると考えられている単球、マクロファージなどの白血球細胞が移動することを抑制し、がんの増殖を抑制することが明らかとなった。

近年、遺伝子の発現制御、細胞分化、生活習慣病、腫瘍といった生物学の各領域でヒストン修飾をはじめとするエピゲノム修飾に注目ガ集まっているが、研究グループでは今回の知見は、そういったヒストン修飾やエピゲノム修飾因子が腫瘍増殖に関わることを示すものであり、エピゲノム創薬の新しい標的の1つとして、新たなメカニズムに基づく新規創薬に繋がる可能性を示す成果だとしている。