スタジオジブリ プロデューサーの鈴木敏夫

マキノ雅弘監督の傑作時代劇映画『次郎長三国志』全9作品が、12月4日(日)午後1時より日本映画専門チャンネルで一挙放送される。今回の特集は同シリーズの初DVD化を記念して組まれたものだが、そもそもの仕掛け人はあのスタジオジブリの名プロデューサー・鈴木敏夫だった。

初めてソフト化されたのが今年の10月下旬。それは次郎長シリーズの熱狂的ファンだった鈴木が関係各所に働きかけて実現させたもの。さらにDVD化に際して、ジャケットイラストを「ONE PIECE」原作者の尾田栄一郎が手掛けている。実は尾田も同シリーズの大ファンだったことで、鈴木と意気投合。この日本エンタテインメント界最強タッグが、長らく未DVD化の憂き目にあっていた"清水の次郎長"を引っ張り出した。

同シリーズに鈴木が惹かれたのは「子どもじゃわからない、大人向けの綾(あや)がある」という部分だった。敗戦後の日本ではGHQによる「チャンバラ禁止令」のために、封建的なチャンバラものは製作できず、もっぱら勧善懲悪の子ども向けアクション要素の強い時代劇が生まれる土壌が出来上がってしまった。そんな時代に登場したのが、マキノ監督の『次郎長三国志』。酒癖が悪いことから事件を起こし故郷を追われるという次郎長像は、ヒーローとは対極の設定だった。問題が起こると1人で抱え込まずに、仲間たちに相談するのだが「その姿が人間としてとてもリアル。テーマは笑いと涙で、まさに大人が楽しむための深い時代劇だった」と鈴木は解説する。

お気に入りのキャラクターは、森繁久彌演じる森の石松。鈴木はこのキャラクターを「一途で、ひたむきで、一所懸命で、けなげ」と表現するが、それこそまさに宮崎駿監督が映画『崖の上のポニョ』に至るまで描き続けてきた主要キャラクターの姿である。「改めてこのシリーズを見直すと、ここから来ているのかと思うし、まさに原点ここにありです。さらに宮崎監督より前で考えていくと、黒澤明監督に行き着き、そして現代では尾田さんの『ONE PIECE』にたどり着くわけです」。

キャラクターだけではない。「そのままジブリの歴史にも当てはまるんです。僕と宮崎監督と高畑勲監督の3人で会社を作り、気がついたらどんどん人が増えていった。それって次郎長が子分を増やして一家を成していく様子とまったく一緒なんですよ」と共通点を挙げる。ならば何役かと鈴木に尋ねると「う~ん、このシリーズでいうならば次郎長かな? 僕は物を考えるときは皆で知恵を出し合おうというタイプで、頼りないんです」とニヤリ。確かに、鈴木が次郎長タイプであるという事はうなずける。しかしそれは決して「頼りない」からではない。沢山の人々が次郎長を慕い集まったように、才能ある人を惹き付ける魅力と大地に根を張る大木のような存在感が鈴木にはあるからだ。

日本映画専門チャンネルでは12月4日(日)午後1時より全9シリーズ放送のほか、チャンネルオリジナル特別企画として鈴木と、テレビドラマ『北の国から』、映画『最後の忠臣蔵』の杉田成道監督による対談番組を映画『次郎長三国志 第一部 次郎長売出す』本編前後に生中継でお送りする。さらに同じく第一部本編放送中、ニコニコ生放送にて2人によるビジュアルコメンタリーも同時配信。果してこの2人からどんな話が飛び出すのか、今から楽しみだ。