理化学研究所(理研)、筑波大学、東京大学、および富士通による研究グループは11月18日、日本の次世代スーパーコンピュータ「京」を用いた研究成果が、HPCに関する国際会議「SC11」において、並列計算技術の向上を目的にACM(Association for Computing Machinery:米国計算機学会)によって運営され、ハードウェアとアプリケーションの開発において最も優れた成果を上げた論文に付与される賞「ゴードン・ベル賞(ACM Gordon Bell Prize)」の最高性能賞を受賞したことを発表した。

受賞の対象となった成果は、次世代半導体の基幹材料として注目されているシリコン・ナノワイヤ材料の電子状態を計算したもの。同ナノワイヤは、電界効果トランジスタの電子の通り道(チャネル)の材料となるもので、約1万~10万のシリコン原子から構成され直径が約10~20nm、長さは約10nm。今回の成果は、107,292個のシリコン原子からなるナノワイヤ(直径20nm、長さ6nm)に対する、量子論に基づく電子状態計算を世界で初めて行ったもので、「京」全体の約3分の2のシステムを用いて計算した結果、実効性能3.08PFlops(実行効率約43.6%)を達成した。

シリコン・ナノワイヤ材を用いた電界効果トランジスタのイメージ。ゲート部分(黄色)に電圧を加え、酸化物(灰色)を介して、ソースとドレインの間(青)に流れる電流(電子)を制御する

また、1万個から4万個の原子規模からなるシリコン・ナノワイヤについて、円、楕円、ダンベルなどさまざまな断面形状を持つ長さ約10nmのナノワイヤの電子状態を解明し、電子輸送の特性がナノスケールの形状に大きく依存することを明らかにした。

シリコン・ナノワイヤの伝導電子の状態数とエネルギーの関係。シリコン・ナノワイヤの断面形状や側面の滑らかさを変えた時の、横軸の各エネルギーを持つ伝導電子の状態数

「京」による実アプリケーションが評価され、ゴードン・ベル賞の最高性能賞を受賞することができたことは、今後の科学技術の発展に「京」が寄与することを、国際的な学会が認めたことを意味すると研究グループでは説明しており、今後も引き続き、シリコン・ナノワイヤの性質を明らかにしていくとともに、今回の成果を他のアプリケーションの高度化にも活かし、「京」がもたらす多様な分野の科学的成果の早期創出に向けて、取り組みを進めていくとしている。

なお、日本の研究グループによる同賞の最高性能賞受賞は、2004年に海洋研究開発機構(JAMSTEC)が保有する地球シミュレータ(初代)を用い、地磁気ダイナモシミュレーションを行った神戸大学の陰山聡教授(当時 海洋研究開発機構)らのグループが獲得して以来のことである。