京都大学(京大)は、タンパク質ナノモーター「V型ATPase」の回転軸の詳細構造を解明し、V型ATPaseの活性調節に関わる新たな領域が判明したことを発表した。研究は京大医学研究科の岩田想教授と千葉大学、東京理科大学、理化学研究所らの研究者らによる共同研究によるもので、成果は米科学雑誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」電子版にて11月14日の週に公開。

V型ATPaseは、細菌からヒトまで多くの生体膜中に存在し、水素イオンを運ぶことで膜内外のpHを調整しているタンパク質ナノモーターだ。同時に、骨の形成に関わる破骨細胞やがん細胞の細胞膜にも存在しており、骨粗鬆症やがん細胞の増殖・転移に関与していることも知られている。そのため、V型ATPaseの分子メカニズムを知ることは、これら疾病の理解や創薬への応用に繋がる重要な知見になるとされている次第だ。そこで研究グループは、今回V型ATPaseの活性調節のメカニズムを明らかにすることを目的として、V型ATPaseの回転軸である「DF複合体」の立体構造の解明を試みたのである。

V型ATPaseは、大きく2つの構造を持つ。ATP分解能を持つ「V1」部分と、イオン輸送能を持つ「Vo」部分だ。触媒頭部(A3B3)をもつV1部分でATPを分解し、そのエネルギーを使ってVo部分の膜内ローターリングを回転させ、水素イオンを膜の逆側へと輸送するイオンポンプとして機能しているのである。回転軸はD、F、dサブユニットから形成され、V1部分とVo部分の間に位置し、回転をVo部分に伝達する仕組みだ(画像1)。

画像1。V型ATPaseの構造モデル。V型ATPaseは9~13種類のタンパク質からなる超分子複合体で、水溶性タンパク質部分(V1部分)と膜タンパク質部分(Vo部分)からなる。触媒頭部(A3B3)でATPを加水分解し、回転軸(DFd)とローターリング(c)を回転させ、水素イオンを細胞外へ輸送する

研究グループでは、腸内連鎖球菌にもヒト型V型ATPaseによく似た酵素が存在することを発見し、その生化学的・構造生物学的研究を進め、V型ATPaseの回転軸であるDF複合体のX線結晶構造解析(分解能2.0オングストローム)に成功した(画像2・A)。

画像2。回転軸(DF複合体)のX線結晶構造。(A)DF複合体の構造(D:緑、F:赤)。(B) Dサブユニットの構造。点線の赤枠内がβヘアピン領域

得られたDサブユニット構造には、これまでに報告されている類似タンパク質構造には見られない新規の「βヘアピン領域」が存在していることが判明(画像2・B)。このβヘアピン領域を欠いた変異Dタンパク質を作製し、接触頭部との結合能やATPase活性への影響を調べた結果、この領域はV型ATPaseの活性調節に関与することが確認された。

また、回転軸サブユニット間の結合親和性を表面プラズモン共鳴法(センサ表面にタンパク質を固定し、他の分子との相互作用を標識なしに高感度かつリアルタイムに測定できる手法)により調べたところ、DF-d間の親和性は、A3B3-D、A3B3D-F間の親和性よりも弱く、この弱い結合親和性もV型ATPaseの活性調節に関わっている可能性が示唆された。

なお研究グループでは、ヒトV型ATPaseにも今回判明した新たな領域があると推定されるとしている。また、今回の知見によりV型ATPaseの活性調節機構の解明に役立つと期待されるとした。