自然科学研究機構 分子科学研究所(IMS)の江東林 准教授らの研究グループは、多孔性有機構造体表面に官能基を導入することで、多孔構造の表面を自在に制御して構築できる手法を開発した。同成果は、英学際的Natureの姉妹誌「Nature Communications」に掲載された。

多孔性有機構造体は、表面積が大きく、周囲の様々な分子と相互作用できるため、種々の機能や優れた応用可能性を秘めており、先端材料として注目されている。多孔構造の表面はガスやゲスト分子とミクロンインタフェースを形成し、材料の物理・化学的な性質、例えば、ガス吸着、分子分離、触媒反応、エネルギー貯蔵などの機能をもたらすのに決定的な影響を与えているため、構造体の表面をいかに制御してつくるかということが、多孔性材料の開拓において中心的な課題となっている。しかし、これまで有機多孔体の表面を制御して構築する方法がなく、合成手法を用いた新たな多孔性有機構造体の創出が求められていた。

研究グループは、2次元高分子(積層することによって多孔性有機構造体を形成する高分子)の合成と機能開発の研究を行ってきており、これまでに、2次元高分子にπ電子系を導入することで、新規のπ電子系2次元高分子の合成を行い、最近では、このπ電子系分子としてトリフェニレンやピレン、アントラセンなどの共役炭化水素化合物を用いて、ポルフィリンやフタロシアニンなど巨大なπ電子系からなる2次元高分子も構築している。

今回の研究では、2次元高分子のナノポア構造に着目し、多孔構造の表面を自由自在に制御して構築できる手法を開発した。2次元高分子は、規則正しいポア構造を有する共有結合性高分子で、積層することにより1次元チャネルを有する多孔性有機構造体を形成する。軽い元素を共有結合で連結して分子骨格を作り上げているため、軽くて丈夫という特徴を有する。

同手法では、2次元高分子を形成するモノマーとしてアジド官能基を有するエッジユニットを用い、2成分あるいは3成分からなる縮重合反応により高分子を形成した。この反応により、アジド官能基を設計したとおりの量で多孔構造体の表面に導入することができたほか、2次元高分子の積層構造に影響することなく、結晶構造を保ったまま、アジド官能基を多孔表面に導入することにも成功したという。

今回の研究成果の一例。上段は、今回の成果を化学構造式で示したもので、最左端・最上段はモノマーとして用いたアジド官能基を有するエッジユニット。N3-COF-5はアジド官能基を導入した多孔性有機骨格(COF)。RTrz-COF-5はアジド官能基とアルキン誘導体とのクリック反応により得られたトリアゾールを介して官能基を導入したもの。
下段は、多孔性積層構造の表面を構築した例を図示したもの。図中灰色は多孔性有機骨格構造、青色は多孔表面に導入された官能基の窒素原子。中心の空間がポア構造を示す。左端は表面に官能基が導入されていない従来の多孔性有機骨格構造で、他3例は2次元高分子の表面に官能基を導入し、積層構造を構築したものの複数例

これは、多孔表面に位置するアジドユニットが高い反応性を示し、アルキン誘導体とのクリック反応を定量的に起こし、3つの窒素原子を含む5員環構造のトリアゾールを介して官能基を多孔表面に植え付けることによって成功したもので、こうして得られた物質は、従来の多孔性材料にはない機能を発揮することができるという。例えば、窒素分子は多孔性材料の孔の部分を通り抜けるが、二酸化炭素分子はサイズが大きく通り抜けないため、多孔性材料は二酸化炭素を選択的に吸着することができる。今回の研究では、その選択吸着性を従来の16倍に向上させることに成功したという。

また、多孔性構造体のポア形態に依存せず、原理的にすべての多孔性構造体に適応することができるため、例えば、六角形に加え、正方形の多孔構造も、同様な手法によって表面を制御してつくることができるほか、官能基の例として、アルキル鎖、エステル基、アセチルユニット、芳香族官能基など種々のユニットを導入することにも成功しており、これにより、多孔性構造の表面を制御でき、窒素に対する二酸化炭素の選択吸着以外でも、ターゲットとする様々な材料の機能向上ができるようになる。特に、従来の縮重合反応で合成できない大きな官能基を持った多孔性材料も思いのままに構築できるようになるという。

この技術を活用することで、例えば水素吸着に適した多孔構造を意図的に作ることが可能となり、大容量の水素を貯蔵できる高分子の創出に繋がるほか、光機能性ユニットを巨大な多孔構造の表面に導入することで、電子移動や電荷分離が促進され、高効率な太陽電池の創製に資する新規な光機能性多孔材料を構築することができるようになるという。また、表面に官能基を持たない多孔体に比べ、このように設計して作られた多孔性材料では表面積やポアサイズを系統的かつ精密に制御することができるため、例えば、メソポアの3.5nmからウルトラミクロポアの0.7nmまで、きめ細かくポアサイズを調整することができることから、テーラーメードで2次元高分子の多孔構造をつくるという、機能高分子の開発につながる技術的なブレークスルーが可能になるとしている。

多孔性有機材料はガス吸着、水素貯蔵、触媒反応、エネルギー変換、蓄電などと深く関連した鍵となる物質であり、中でも多孔表面は機能発現の中心的な役割を担っているため、その表面制御は、有機材料の機能向上及び応用への展開において、重要なポイントとなる。今回の成果は、多孔表面に2次元高分子の積層構造を保ったまま官能基を導入し、表面構造を設計したうえで構築することに成功したもので、ターゲットとする材料の機能向上を可能とする手法が示されたことを意味するほか、種々の官能基に対応できる上、多様な形状の多孔構造にも適用できる汎用性の高さを持っていることから、多孔性構造体のテーラーメードな表面制御のみならず、多孔性有機材料の機能開発を実現する技術と位置づけられるという。