九州大学(九大)の浜屋宏平准教授の研究チームは、Si CMOSトランジスタの高性能化限界を打破するメタルソース/ドレイン技術を開発したことを発表した。同成果の物理現象の詳細は、米国物理学誌「Physical Review B」に掲載された。
SiによるCMOSプロセスの微細化限界が見えつつあり、それに変わる次世代の高速半導体チャネル材料としてGeの活用が期待されているが、CMOSトランジスタへ応用するためには、「高性能ゲート絶縁膜を利用した高移動度技術」、「極薄膜チャネル層の形成技術」、そして「メタルソース/ドレイン技術」という3つの基本技術を確立する必要がある。これまで、国内外の研究機関・企業の報告より、前者2つの技術に関しては高性能化への指針が明らかにされてきたが、既存のメタルソース/ドレイン技術を応用してnチャネルMOSトランジスタを実現するためには、金属とGeの接合界面におけるフェルミ準位ピニングという、整流特性の制御を妨害する物理現象を本質的に解決する必要があり、これまで、金属とGeの界面に極薄絶縁層を挿入したnチャネルMOSトランジスタの動作は報告されていたが、実用化に伴う微細化技術の要求に対して、寄生抵抗を排除できないという別の課題があった。
研究チームでは、シリサイド化合物の一種である「Fe3Si」という金属材料に着目、Fe3SiとGeを原子層レベルの制御性を保った状態で接合することで、金属/p-Ge直接接合における電流-電圧特性における明瞭な整流特性(ショットキー伝導)を発現させることに成功した(ショットキー障壁高さφB正孔=約0.2eV)。
従来、金属とGeの直接接合界面では、ショットキー伝導は観測されておらず、オーミック伝導しか報告されていなかったため、その界面におけるフェルミ準位ピニングは本質的に制御することができないと考えられていたが同成果は、その常識を覆す結果であり、高性能半導体を実用化するうえで、界面の伝導特性を制御するためには、原子レベルの接合界面形成技術が重要であるということを示しているほか、金属/n-Ge接合においても有効であることが確認されている。
Fe3Siの格子定数はGeのそれと完全に一致しており、その結晶構造はFe原子を基礎とした8つの体心立方格子の中心にFe原子またはSi原子が規則的に配置されたDO3規則構造と呼ばれる安定相を形成している。Ge(ダイヤモンド構造)とは異なるこの結晶構造を斜めから眺めた111結晶面に注目すると、Feが3層とSiが1層の積層構造となっている。これはGe(111)最表面とFe3Si(111)のFe面またはSi面は、原子の配列状態が一致しており、ごく自然な結合を形成し得ることとなり、今回はこの111結晶面を用いることにより、原子層制御されたFe3Si/Ge(111)界面を実現した。
また、DO3規則構造のFe3Siは、Fe原子とSi原子の位置が決められているため、FeとSiの組成比が制御された状態でGeと接合しなければ、こうした原子配列モデルは成り立たない。今回の研究では、高い確率でDO3規則構造を形成するために、厳密な組成制御を実現し得るクヌーセンセル(Knudsen-Cells)を用いた分子線エピタキシ(Molecular Beam Epitaxy:MBE)法を用いて行ったが、研究チームではMBE法に限らず、組成の厳密制御が可能であれば、より簡便な方法を用いて実用的なメタルソース/ドレイン技術として発展できると説明している。
なお同技術は、強磁性体であるFe3Siを用いた、メタルソース/ドレインMOSトランジスタ動作の可能性と直結しているため、将来的なスピントランジスタへの応用も期待されるという。そのため、同技術を用いることで、n-Geに対してはショットキー障壁高さ(φB電子)が下がる効果が発現するため、今後、電子スピンのトンネル注入技術へと発展させる予定だという。
また、今回の成果により、金属とGeの界面の物性を支配している要因は、その接合界面に存在する欠陥であるという知見が得られたことから、今後は、この欠陥の形成を極限まで抑制する技術の開発、および金属の仕事関数制御を行なうことで、高性能なメタルソース/ドレイン制御技術へと発展させることができるようになるという。
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