北海道大学を中心とする研究グループは、従来、複合糖質の中でも特に解析が困難であった糖脂質、グリコサミノグリカン、O-結合型糖鎖の解析技術を開発。胚性腫瘍細胞などのモデル細胞を用いた検証試験の結果、これらの方法が細胞の複合糖質の構成を詳細に明らかにすることを実証するとともに、細胞の有する固有の複合糖質プロファイルが高度に細胞特異的であることを確認したことを発表した。

細胞の識別マーカーは、その多くが複合糖質(糖脂質、グリコサミノグリカン、糖タンパク質など)であることが経験的に知られているが、複合糖質の解析は一般に難しいため、積極的に複合糖質のマーカーを探すアプローチをとることは困難であり、ようやく近年、N-結合型糖鎖と呼ばれる糖タンパク質糖鎖が比較的容易に解析できるようになってきた以外のクラスの複合糖質の糖鎖の解析は依然困難な状態となっている。

細胞表層の複合糖質の分析法として、抗体を用いる方法論が広く用いられてきたが、これらの方法では、詳細な分子構造が不明なことも多く、汎用性や定量性にも問題が残ることから、研究グループでは、質量分析法による精密な解析法の構築を目指し、独自に開発してきた糖鎖の精製技術や新たな標識法などを駆使して、従来解析が困難であった糖脂質、グリコサミノグリカン、糖タンパク質のO-結合型糖鎖の解析技術の構築を行った。また、確立した方法論を胚性腫瘍細胞などのモデル細胞に適用し、細胞の主要な複合糖質糖鎖プロファイリングの有用性の検証も行った。

この結果、複雑な混合物中からの糖鎖を選択的に精製する独自技術ならびに、高感度検出を実現する独自標識技術などを用いることで、すでに開発済のN-結合型糖鎖の解析法に加えて、糖脂質、グリコサミノグリカンの糖鎖の細胞や組織における発現動態を高感度に絶対定量することが可能になった。

胚性腫瘍細胞などのモデル細胞を用いた有用性の評価を検証した結果、これらの方法が細胞の複合糖質の構成を詳細に明らかにすることを実証するとともに、細胞の有する固有の複合糖質プロファイルが高度に細胞特異的であることが判明した。このことは複合糖質プロファイリングが優れた細胞記述子となることを示したものであるほか、従来は困難であった異なるクラス間の複合糖質糖鎖の発現量の相互比較が可能になることから、「細胞の顔」というべき細胞の複合糖質の構成が定性・定量的にもより明確に見えるようになることを意味する。

さらに、O-結合型糖鎖は、構造の多様性と不安定性から特に解析が困難であったが、タンパク質からO-結合型糖鎖を化学的に切り出すのと同時に、糖鎖とタンパク質の糖結合位置を同時かつ安定的に、分析に有利なようにラベルする新たな方法を確立したという。

なお、これらの技術は、従来解析が困難であった複合糖質群の糖鎖解析を改善するものであり、今後、再生医療や創薬研究において重要となる細胞の、精密な記述や評価法として貢献することが期待されるという。