バイオテックの長倉誠 社長と理化学研究所(理研)の石川智久 上級研究員、ダナフォームの 三谷康正 事業開発部長らの開発チームは、理研が開発した、30分以内に一塩基多型(SNP:Single Nucleotide Polymorphism)を検出する「SmartAmp(スマートアンプ)法」を技術基盤として国産のSNP検出装置の実用化に成功したことを発表した(図1)。

図1 今回開発に成功した、SmartAmp法を技術基盤としたSNP検出装置

患者個人の体質に合った治療を行う「個別化医療」を実現するには、安価で正確、迅速なSNP検出法とその装置開発が必要不可欠。具体的には、1検体あたり数千円以下で、検出時間30分程度。さらに100%の正確さが求められる。

しかし、従来のSNP検出技術は、核酸の精製、増幅、検出と多段階ステップに分かれており、1検体を解析するのに半日から数日かかった。また、薬物トランスポータであるABCB1(P-gp)遺伝子などの3種類のアレルを解析する際に、誤った検出結果を引き起こす可能性も報告されている。さらに、PCR法やDNAチップ法などは開発元の海外企業に特許使用料を払う必要があり、日本の医療制度にとっては不利であった。

そこで日本独自の技術として開発されたのが、理研のSmartAmp法だ。等温核酸増幅技術の一種で、DNA鎖置換活性を有するAacDNAポリメラーゼと非対称なプライマーデザインによって、目的のDNA配列部分を迅速かつ高感度に増幅できるのが特徴。SmartAmp法を応用することで、1滴の血液からヒトのSNPを検出できる他、がん組織特異的な遺伝子変異の検出、さらには様々な感染症を引き起こすバクテリアやウィルスの検出も原理的に可能だと言う。

同開発プロジェクトは、SmartAmp法を技術基盤とした迅速なSNP検出装置を開発し、薬物トランスポーターや薬物代謝酵素などのSNP検出を実現することを目的に、2009年度より始動。市場ターゲットとして、病院の臨床検査室をはじめ臨床検査会社への導入、さらに国際市場への進出も狙っている。そのためには医療機器としての届出が不可欠であり、それを考慮した開発を行ってきたと言う。その結果として今回、SmartAmp法による国産SNP検出装置の実用化に成功した。

SmartAmp法では、SNPを正確に識別しながらDNA増幅を効率的に行うことが可能。1滴の血液から検出でき、時間も30分程度と短縮されるため、トータルの測定時間削減も可能となった(図2)。また、60℃、30分間の等温条件下で反応を進行させるため、従来の温度を変化させながら増幅するPCR法の装置と比較し、装置の小型化・簡便化にも成功した。さらに、専用ソフトウェアも新たに開発して搭載することで、測定やデータ処理の簡便性も担保している。

図2 SmartAmp法と従来のSNP検出技術との検出時間比較

外来患者が病院に来て、内科医と面談するまでにかかる時間は30分から1時間程度と言われる。臨床現場では、その間に従来の採血・臨床検査と並行して、薬物動態関連遺伝子(薬物代謝酵素およびトランスポータ)のSNPを迅速かつ正確に検出し、その結果に基づいて医師が診断を行い、医薬品の種類と最適投与量を選択できるような、トータル情報システムの開発が期待されている。

しかし、SNP検出に基づく個別化医療を実現するには、試薬、装置、データベースの3つの要素がそろわなくてはならない。特に疾患治療に使う薬の副作用に関与する遺伝子(薬物代謝酵素、トランスポータ、薬物ターゲット)においては、あらかじめ、その遺伝子の多型を検出することにより副作用の低減を図る必要性が提唱されている。

同開発プロジェクトでは、今回開発したSNP検出装置を用いて今後さらに国内外の医療現場で試験を実施。臨床での利便性と確実性を検証し、個別化医療の実現に貢献したいと言う(図3)。

図3 SmartAmp法の医療現場での活用イメージ(将来予想)