東京大学は、新型の計測装置を持って、従来と同等の高精度で二酸化炭素(CO2)安定炭素同位体の計測に成功したことを発表した。研究は東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻の戸野倉賢一教授らによるもので、成果は「Applied Physics B: Lasers and Optics」オンライン版に掲載されたほか、「Nature Photonics」10月号でも紹介される予定。

温室効果ガスであるCO2の大気中の収支を解明することは、温室効果ガスの抑止を施策するために極めて重要な課題だ。CO2の起源により、安定炭素同位体比(δ13C値、12CO2の存在比に対する13CO2の存在比)が異なるため、CO2の安定炭素同位対比を現場において高い時間分解能で直接計測を行えれば、CO2の排出源や、大気収支を解明するために有用な情報を得られ、その排出削減に関する策定が可能になるのである。

天然に存在するCO2の約1%は13CO2であり、12CO213CO2の同位対比の変化をリアルタイムに、なおかつ精度よく測定するためには、高感度な微量ガス検出手法の導入が必要不可欠だ。

これまでは、安定炭素同位体の計測は一般的に同位対比質量分析計を用いて行われてきたが、気体をサンプリングし、実験室に持ち帰る必要があった。この方法では、高い精度で計測が可能である反面、サンプリングしてから計測までの時間変化の問題や、前処理が必要、現場での計測が困難、装置が複雑であるといった課題が存在し、これらを克服できる装置の開発が望まれていた。

そこで研究チームでは、光通信用に開発された2μm帯の半導体レーザーを光源として使用し、「Herriott型多重反射セル」と「波長変調吸収分光法」を基板とした、安定炭素同位体を連続計測可能な「可搬型高精度二酸化炭素安定炭素同位体計測装置」を開発した(画像1)。高感度の吸収分光法を用いて、計測装置の温度圧力などを高精度に制御することで、高精度な安定炭素同位対比の測定に成功したのである。同装置によるδ13C値の計測精度は0.02‰で、安定同位体比質量分析計「IRMS」の精度(0.01~0.1‰の精度を持つ)に匹敵する結果となった。

画像1。可搬型高精度二酸化炭素安定炭素同位体計測装置

なお、Herriott型多重反射セルとは、2枚の凹面鏡を同軸に向かい合って配置し、ミラーに施された切欠き部分からレーザーを入射させ、レーザー光を各凹面鏡上に「リサジュー曲線」(オシロスコープ上で見られるような曲線)を描くように多重反射させ、限られた空間内で光路長を長く確保できるという特徴を持つ。

また、波長変調吸収分光法は、単色の検出光の波長を数kHz以上で変調し、変調した光を「ヘテロダイン」(2つの波長を合成またはかけ合わせること)検出することにより、変調周波数の吸収成分のみを検出する手法のこと。この時、変調周波数の吸収成分は、吸収物質がない場合ゼロとなり、ゼロバックグラウンド測定が可能となる。波長変調吸収分光法は、バックグラウンド信号の除去により検出感度の向上ができ、通常の吸収法に比べ、感度はおよそ2桁よくなるという特徴を持つ。

具体的に、今回開発した装置で東京の二酸化炭素安定炭素同位体比の連続計測を行った結果が画像2だ。この計測の際に3ヶ所で大気をサンプリングし、IRMSによる計測も行ったところ概ね一致し、今回の装置により大気中のCO2安定炭素同位体の変化を高精度、リアルタイムに計測できることが立証された。

画像2。今回開発した装置を用いて計測したδ13C値(a)とCO2濃度(B)のリアルタイム変化

これにより、地球温暖化防止に対する効果的な施策を講じる際、温室効果ガスの排出挙動の把握ができるようになるとしている。さらに、医療現場における呼気診断、森林生態系における温室効果ガスの収支挙動、火山活動予測といった幅広い分野への応用も期待されているとした。