放射線医学総合研究所(放医研) 分子イメージング研究センターの山谷泰賀チームリーダーらの開発チームは、新しい陽電子断層撮像法(PET)用3次元放射線検出器「クリスタルキューブ」を開発したことを発表した。同成果は、10月5日(英国時間)に英国物理学会発行の学術論文誌「Physics in Medicine and Biology」に掲載された。

近年、がんや認知症などの早期診断にPETの活用が進みつつある。PETは、極微量の放射性同位元素(陽電子放出核種)を含む特殊な薬剤を投与し、放出される放射線を測定することで薬剤の分布や動きを画像化し、病気の有無や程度を調べる検査法で、がんなどの早期発見だけではなく、分子イメージング研究でも不可欠な技術となっている。しかし、従来のPET感度や解像度は、理論的に到達可能な値までは達していなかった。

PET用放射線検出器は、放射線を微弱な光(シンチレーション光)に変換するシンチレータと、光を電気信号に変換する受光素子から構成されており、PETの感度と解像度をともに高めるためには、検出器を測定対象に近づける必要があるが、放射線を高い感度で検出するためには、高性能なPET用シンチレータでも2cm程度の厚さが必要であった。このシンチレータ自体の厚みにより斜め入射の放射線位置を正確に検出することができず、高い感度を保ったまま、理論限界まで解像度を高めることが困難であった。

図1 従来の2次元放射線検出器の概念図。PETの感度と解像度をともに高めるためには検出器を測定対象に近づける必要がある。従来の2次元放射線検出器では、シンチレータの厚み自体によって斜め入射の放射線位置を正確に検出できない

シンチレータ内部の放射線位置を3次元的に特定できる検出器が実現されれば、こうした問題は解決できる。開発チームは、すでにシンチレータの深さ方向に4段の位置弁別が可能な3次元放射線検出器「DOI検出器」を開発していたが、受光素子である光電子増倍管の小型化には限界があり、従来の2次元放射線検出器と同様に、シンチレータブロックの1面のみにしか受光素子を接合できず、シンチレータの深さ方向の位置弁別性能が十分ではなかった。そこで今回は、縦・横・深さ各方向ともに同等な解像度を持つ3次元放射線検出器の実現を目指し、新たな検出器「クリスタルキューブ」を開発した。

具体的には、シンチレータブロックの全面に受光素子を接合して、シンチレータ内部の放射線3次元位置を縦・横・深さ各方向ともに同等な解像度で得られるようにした。検出できるシンチレーション光の量が多いほど、検出器の性能を高めることができるが、これは新型の複数のガイガーモード(APD:Avalanche Photodiode)からなる半導体受光素子「MPPC(Multi-Pixel Photon Counter)を採用したことにより実現された。

図2 従来検出器と開発検出器の比較。従来の2次元放射線検出器(左)や3次元放射線検出器(DOI検出器)(中)では、シンチレータブロックの1面のみに光電子増倍管を接合していた。今回開発された検出器「クリスタルキューブ」(右)では、シンチレータブロックの全面に半導体受光素子MPPCを接合する

MPPCは薄いため、放射線の入射窓を覆っても放射線を遮る心配はなく、検出器を並べたときにも邪魔にならない。今回、1辺1mmの微小立方体形状のLYSO(ケイ酸ルテチウムイットリウム)単結晶シンチレータを16×16×16に並べたシンチレータブロックの6面すべてにMPPCを接合した検出器を試作し、PET用検出器として究極とも言える1mmの解像度を得ることに成功した。

図3 試作に用いたMPPC(左)とシンチレータブロック(中、右)。最初に1辺3mmの立方体シンチレータからなるブロック(中)で基本原理を検証した後、1辺1mm立方体シンチレータからなるブロック(右)へ進んだ。材質は、3mmサイズはLGSO(ケイ酸ルテチウムガドリニウム)単結晶、1mmサイズはLYSO(ケイ酸ルテチウムイットリウム)単結晶

なお、今回の開発では、千葉大学 大学院工学研究科の菅幹生 准教授と東京大学 大学院総合文化研究科の澁谷憲悟 助教が、クリスタルキューブに適した演算アルゴリズムの開発を担当し、千葉大学 フロンティアメディカル工学研究開発センターの羽石秀昭 教授が、シンチレータブロック内部の光の広がり方の解析を担当したほか、浜松ホトニクスが、MPPCや専用信号処理回路の開発を担当した。

図4 試作したクリスタルキューブ(左)と位置弁別性能を示す実験結果(右)。一様に放射線を照射し位置演算を行った結果、各々の1mmの立方体シンチレータが分離できていることが示された(なお、検出器の写真(左)では、一部のMPPCが外された状態となっている)

現在、開発チームではクリスタルキューブの実用化に向けて、検出器のコンパクト化や、シンチレータブロック加工の効率化を進めており、それを脳診断など部位に特化した小型PET装置などに応用すれば、PET解像度の理論限界とされる1mm前後の解像度を得られる可能性が出てくる。そのため、これまでのPET検査では見えなかった、大脳皮質の層構造や脳幹部におけるさまざまな神経細胞の分布などが見えるようになることが考えられ、神経変性疾患や精神疾患の病態解明に役立つことが期待されるほか、検出器を測定対象に近づけると同時に感度も向上するため、検査による被ばく量を1/10程度にまで低減できる可能性もでてくるという。

図5 クリスタルキューブの実用化に向けて進めている改良の一例。MPPCアレイの開発(左)をはじめとした回路部品の小型化や、一塊のシンチレータに外部からレーザー照射して加工するシンチレータブロックの開発(右)が進められているという