農林水産省(農水省)は9月14日、農地土壌の放射性物質除去技術(除染技術)の開発の取組について、これまで得られた研究成果をとりまとめ、地目や放射性セシウム濃度に応じた農地土壌除染の技術的な考え方を公開した。

具体的には試験研究機関での予備試験を踏まえ、地目(水田、畑)や汚染程度などを考慮した上で、福島県の飯舘村および川俣町の現地圃場などにおいて、「表土の削り取り」、「水による土壌撹拌・除去」、「反転耕による汚染土壌の埋め込み」、および「高吸収植物による除染」などの実証試験を進めているほか、除染に伴って生じる汚染土壌や植物体の処理・保管技術についても研究を進めている。

福島県における農地土壌の放射性物質濃度分布図

これまでの研究から得られた知見としては、「表土の削り取り」では農業機械などで表土を薄く削り取る「基本的な削り取り」、土を固める薬剤を用いて土壌表層を固化させて削り取る「固化剤を用いた削り取り」、農地の牧草や草ごと土を削り取る「芝・牧草のはぎ取り」となり、基本的な削り取りでは、約4cmの削り取りで土壌の放射性セシウム濃度は10370Bq/kgから2599Bq/kgへと約75%低減できることが確認され、それに伴い、圃場地表面の空間線量率も7.14μSv/hから3.39μSv/hへと低減できることが確認された。削り取りまでにかかる作業時間は55~70分/10a程度で、廃棄土壌量は約40m3(40t)/10aとなった。

固化剤を用いた削り取りは、実証試験ではマグネシウム系固化剤を溶液として土壌に浸透させることで地表から2cm程度の表層土壌を7~10日かけて固化を実施。3.0cmの削り取りで土壌の放射性セシウム濃度は9090Bq/kgから約82%減となる1671Bq/kgとなったほか、圃場地表面の空間線量率も7.76μSv/hから3.57μSv/hへと低減されることが確認された。この場合の廃棄土壌は30m3/10aとなっている。

芝・牧草のはぎ取りは、3cmの削り取りで、土壌の放射性セシウム濃度は13600Bq/kgから約97%減となる327Bq/kgとなった。作業時間ははぎ取りまでで250分/10a、草を含んだ排土量は約40t/10aとなった。

2つ目の試験内容である「水による土壌撹拌・除去」は、表層土壌を攪拌(浅い代かき)し、濁水を排水した後、水と土壌を分離し、土壌のみを排土とする手法で、土壌の放射性セシウム濃度の低減率は土壌の種類により異なるが、飯館村での実証試験では15254Bq/kgから9689Bq/kg、低減率は36%となり予備試験での約30~70%に当てはまる結果となった。また、圃場内の地表面線量は7.55μSv/hから6.48μSv/hへと低減されたことが確認されたほか、分離された水の放射性セシウムは検出限界以下となり、廃棄土壌量は1.2~1.5t/10aと推計されるという。

3つ目の試験内容である「反転耕による汚染土壌の埋め込み」は、プラウ耕により、30cm以上の反転耕起を行い、放射性物質を土中深くに埋め込む手法。30cmの反転を行うことで、表層に局在していた放射性物質は反転した土中に拡散されることとなり、その結果圃場地表面の空間線量率は、不耕起で0.66μSv/hであったものが、通常のロータリ耕で0.40μSv/h、プラウ耕は0.30μSv/hとなた。また、45cmの反転では、表土は25~40cmの土中に移動することとなるほか、60cmの反転では、表土は40~60cmの土中に移動することとなる。なお、同手法は、施行前に土壌診断、地下水位などによる評価が必要なことに注意が必要だという。

そして4つ目の「高吸収植物による除染」は、放射性セシウムの吸収能力が高い植物を栽培し、土壌を除染しよというもので、主にヒマワリが用いられた。青刈りのヒマワリの放射性セシウム吸着率は、植物体地上部生重当たり52Bq/kgで、単位面積当たりの吸収量は、作付時の土壌の放射性セシウムの約1/2000であり、効果が小さいことが確認され、結果として現時点では除染に利用可能な高吸収植物の候補が得られていないため、現場への普及の段階にはないと結論づけている。

これらの成果を受けた農地土壌除染技術の適用の考え方を農水省では、すでに耕作が行われている場合が多い、稲の作付制限対象区域設定の際の判断基準としている放射性セシウム濃度5000Bq/kg以下の農地については、必要に応じて反転耕などにより農作物への移行低減対策、空間線量率低減対策を講じることが適当としている。

また、5000~10000Bq/kgの農地については、地目や土壌の条件を考慮した上で、水による土壌撹拌・除去、表土削り取り、反転耕を選択して行うことが適当とするほか、10000~25000Bq/kgの農地については、表土削り取りを行うことが適当で、10000Bq/kgを超えると、深さ30cmの反転耕による希釈で5,000Bq/kg以下にすることも困難になり、そして25000Bq/kgを超える農地については、固化剤などによる土埃飛散防止措置を講じた上で、5cm以上の厚さで表土の削り取りを行うことが適当だとしている。

農水省が出した農地土壌除染技術適用の考え方

なお、表土を削る場合、廃棄土壌の放射性セシウム濃度が100000Bq/kgを超える可能性があるが、原子力災害対策本部により、脱水汚泥などについて、100000Bq/kgを超える場合には、適切に放射線を遮へいできる施設で保管することが望ましいとされているほか、固化剤による土ほこり飛散防止など、除染作業時の被曝に対する様々な安全対策を講じる必要があるとしている。

また農水省では今後、高吸収植物による生物的除染や各種資材などを用いた作物への吸収抑制技術についての試験を継続し、作物の収穫後に調査結果をとりまとめていくほか、廃棄土壌からの放射性セシウム分離・減容技術についての研究を継続して行っていくとしている。