日立製作所は9月13日、CO2回収機能付き石炭ガス化複合発電(CCS-IGCC)において、CO2を回収する際に必要となる水蒸気の量を削減し、蒸気タービンでの発電量を増やすことを可能とする「低温作動型シフト触媒」を開発したと発表した。

シフト触媒は、一酸化炭素(CO)を主成分とする「石炭ガス化ガス」(石炭ガス)を水蒸気と反応させ、CO2に転換するプロセスで使用するもの。今回の技術では、触媒において分子が吸着して反応する場所である「反応活性点」を高分散化させると共に、反応活性点を効率よく生成することで反応速度を高める点が特徴となっている。これにより、CO2回収に伴う水蒸気使用量を従来よりも3分の2に低減することができ、発電効率の向上を実現することが可能だ。

CCS(Carbon Dioxide Capture and Storage)-IGCC(Integrated Coal Gasification Combined Cycle)システム(画像1)は、石炭をそのまま燃焼させるのではなく、石炭をガス化し、さらにガス中に含まれるCOを水蒸気と反応させて水素(H2)とCO2に転換し、CO2を分離・回収することで、H2を主成分とする燃料に転換する仕組みを有する。

画像1。CCS-IGCCシステムのプロセスイメージ。CCSはCO2を回収して貯留し、大気中にCO2が排出されることを防止する技術のこと。IGCCは、石炭を水蒸気などと反応させてCOとH2を含むガス燃料を生産し、ガスタービンとガスタービン排熱を回収して発生する水蒸気によって駆動される蒸気タービンで発電する複合発電設備のこと

そのH2燃料はまずガスタービンを回して発電し、さらにガスタービンとカス化炉の排熱で発生させた水蒸気を用いて蒸気タービンを回して発電することで、CO2排出を大幅に抑制しながらも、高効率な発電が可能となる仕組みだ。

CCS-IGCCシステムでは、蒸気タービンへ供給する水蒸気の一部を、石炭ガスの中のCOをCO2に転換させるために使用する。その結果、蒸気タービンへ供給する水蒸気量が減り、CO2を回収する分だけ発電効率が低下するという弱点があった。CO2を回収しながら発電効率をより高くするには、COをCO2に転換させるシフト反応(CO+H2O⇔CO2+H2)を、少ない水蒸気量で効率よく進行させることが課題だったのである。

シフト反応を促進させるためには、シフト触媒を用いるが、従来のシフト触媒では低温域での反応速度が小さく、反応を促進させるためには使用温度を上げることが条件だった(画像2・左)。シフト反応は高温になるほどCOのCO2への「理論転化率」(平衡状態におけるCOのCO2への転換率の理論値)が低くなるため、理論転化率を高める目的で水蒸気の添加量を増やしたとしてきた。しかし、その結果蒸気タービンで使用できる水蒸気量が減り、発電効率の低下につながっていたのである。

同社は石炭ガスから化学製品の原料となる水蒸気を製造する際に使用される低温作動型シフト触媒の開発を行ってきており、今回、低温域での反応速度が大きく、少ない水蒸気量でより理論転化率に近い「CO転化率」(実際の触媒反応におけるCOのCO2への転換率)を得ることができるシフト触媒を開発したという次第だ(画像2・左)。結果、同技術をCCS-IGCCシステムに用いることで、COをCO2に変換させるために必要な水蒸気使用量を3分の1に削減可能なことが実験室で確認された(画像2・右)。

画像2。今回開発したシフト触媒の性能を示したグラフ2点。左は温度に対するCO転化率を示したもの。従来は250℃前後だと非常に転化率が低く、10%前後。それに対し、今回開発された触媒は逆に250℃前後が最も高く、90%以上。従来触媒とは逆で、温度が上がるほど効率が落ちてしまう。それでも従来触媒と同程度。右の某グラフは、蒸気量(H2O/CO)の従来触媒と今回の触媒の比較(温度250℃、圧力2.4MPa)。従来触媒に対して、今回の触媒は3分の2程度に抑えられている

今回の技術における特徴の1つが、「モリブデン粒子を触媒上に高分散化させる」技術だ。石炭ガス中のCOをCO2に転換するシフト触媒では、「触媒担体」(触媒において、反応活性点となる物質が配置される土台)上にシフト反応活性成分であるモリブデンを配置した触媒が用いられている。

従来は、担体上に存在するモリブデン粒子の吸着点が少なく、吸着できなかったモリブデン粒子が担体上で凝集することにより、反応活性点の生成が抑制されることが課題だった。

しかし、今回開発した技術では、担体の成分を最適化することで担体へのモリブデン粒子の吸着点を増加させ、活性成分であるモリブデン粒子を触媒担体上に従来よりも高分散させることが可能となっている。

2つ目の特徴は、「モリブデンの硫化を促進させ、反応活性点を効率よく生成する」技術だ。シフト触媒はモリブデンを反応活性点として作用させるため、使用前に硫黄還元処理を施すことにより、触媒調製時に酸化物として存在しているモリブデンを硫化し、硫化モリブデンを生成することが条件となる。

従来の触媒では、酸化モリブデンの中のモリブデンと酸素の結合力が強く、酸素と硫黄の置換が進行しにくいため、効率よく硫化モリブデンを生成できなかったことが課題だったが、今回の技術では、モリブデンの硫化を促進させる新たな成分を添加することにより、反応活性点の生成量を増やすことに成功している。なお、今回の技術は今後、実証実験を行い、実用化に向けた研究開発を推進していく予定だ。