KEKと慶應、1秒間に30コマ測定できる「波長分散型軟X線吸収分光法」を開発

高エネルギー加速器研究機構(KEK)と慶應義塾大学は8月24日、固体の最表面にある1分子層(固体表面をちょうど一層だけ覆える分子量のこと)以下の分子の種類と量を、ビデオと同じような1秒間30コマの速さで連続測定できる世界最速の「波長分散型軟X線吸収分光法」を開発したと発表した。

今回の研究成果は、KEK物質構造科学研究所所属准教授の雨宮健太氏と、慶應義塾大学理工学部教授の近藤寛氏らによるもので、米科学雑誌「Applied Physics Letters」に掲載された。

触媒はさまざまな場面で使われており、最も身近な1つが、自動車のマフラーに組み込まれたもの。排気ガスを無害なものに変えてくれるわけだが、自動車のマフラーのような触媒は固体の状態で用いるタイプなので「不均一系触媒」と呼ばれる(液体の触媒が「均一系触媒」と呼ばれる)。固体触媒の表面で有害なガスの分子が反応して無害化するという仕組みである。

不均一系触媒を高性能化しようとした場合、触媒が働く場でどのような反応が起きているのかを時間を追って分析することが重要だ。従来は、固体最表面にどのような分子がどれだけの量で存在するのかを直接調べるのに、固体表面に赤外線や紫外線、X線などを当ててその吸収や反射を見る「分光法」が用いられてきた。

中でも、「軟X線吸収分光法」はデータの形状から分子の種類を区別し、1分子層の1/100レベルというわずかな分子までも検出することが可能だ。ただし、1つのデータを得るために数分かかってしまうため、触媒表面で実際に起きている高速反応を追跡することはまったくできなかったのである。

そして軟X線吸収分光法の一種である波長分散型軟X線吸収分光法は、まず測定したい表面に対し、位置によって波長が少しずつ変化する軟X線(波長分散した軟X線)を照射(画像1)。それぞれの位置で吸収された軟X線に応じて放出された電子を別々に取り込むことによって、一度にさまざまな波長に対する吸収の大きさを得るという理屈だ。軟X線の吸収の大きさが、軟X線の波長(エネルギー)によってどのように変化するのかを示すスペクトルから、表面にある分子の種類と量を正確に求めることができるのである。

画像1。波長分散型軟X線吸収分光法の模式図。波長分散した軟X線を表面に照射し、場所によって長波長から短波長までエネルギーが異なるので、飛び出してきた電子がどこからなのかを分離して検出できる仕組みだ

この波長分散型軟X線吸収分光法を、KEK放射光科学研究施設フォトンファクトリーの「BL-16A」に設置したより高輝度のX線を発せさせられる装置「アンジュレータ」からの小さく絞られた強力な軟X線に組み合わせたのが、今回の研究の成果だ。これによって、1秒間に30スペクトルという高速の連続測定が可能となり、触媒表面で起きているような速い化学反応でも、一度の実験で最初から最後まで連続的に追跡できるようになったのである。

研究グループでは、今回の手法を用いて最も基本的な触媒反応の1つである一酸化炭素(CO)と酸素(O)の化学反応が、イリジウムの表面で進行していく様子を追跡した(画像2)。イリジウム表面に1層以下の酸素を吸着させておき、一酸化炭素を流すことで反応を起こしたものだ。反応前に見えていた酸素の素材を示すピークが、一酸化炭素を流し始めると急激に減り、同時にCOを示すピークが成長。これは、CO+O→CO2という化学反応で酸素が使われてしまうためだ。

画像2。イリジウム表面における酸素と一酸化炭素の反応中に測定した軟X線吸収スペクトルの時間変化。反応開始直後は酸素原子のピークが見られるが、しばらくするとなくなり、酸素原子のピークほどではないが、COのピークが続いていく。

実験は反応開始から約150秒で完全に酸素がなくなり、表面には一酸化炭素だけが残って終了となる。この触媒反応のデータを解析すると、反応中のイリジウム表面での一酸化炭素と酸素の量が、時間とともにどのように変化していくかを正確に見積もることが可能だ(画像3)。

画像3。温度の違いにおけるイリジウム表面の酸素と一酸化炭素の時間変化。左の127℃でのグラフは、横軸の反応開始からの時間が200秒なのに対し、右の277℃のグラフは、30秒となっている点に注意。酸素と一酸化炭素の量が交差するポイントが、127℃は約50秒なのに対し、277℃では10秒弱となっている

さらに、自動車に自動車に搭載されている触媒が有効に作動し始める温度(約300℃)に近い277℃では、すべての反応が10秒以内で終わってしまう。よって、1秒間に30コマという高速測定であればこそ、一酸化炭素と酸素の量の変化をしっかりと追跡できたというわけである。この手法を駆使してさまざまな触媒反応の仕組みを解明することで、より高性能な触媒の開発へとつなげていくことも可能というわけだ。

また、KEK放射光科学研究施設フォトンファクトリーのBL-16Aでは、「偏光スイッチング」技術を開発中だ。同技術は、軟X線を含む光の波の性質を利用し、波の振動面が水平面内にある場合の水平偏光と、垂直面内の垂直偏光の2種類を1秒間に何回も切り替えるという技術だ。水平と垂直の両方の偏光を使って測定した軟X線吸収スペクトルを比較すると、表面の分子がどちらの方向を向いているか(配向)がわかるという仕組みである。偏光スイッチングを波長分散型軟X線吸収分光法と組み合わせることで、反応中の分子の種類と量に加え、分子の向きがどのように変化して反応が進んでいくのかまで知ることができるようになるというわけだ。



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