NTTドコモは29日、2011年度第1四半期の決算を発表した。売上高は前年同期比3.9%減の1兆473億円、営業利益は同11.3%増の2,677億円で減収増益。売上の減少を営業費用の削減でカバーした形で、純利益も同11.7%増の1,587億円と拡大した。携帯電話では、スマートフォンの販売が拡大してパケットARPUを押し上げ、音声ARPUを逆転している。

決算会見に臨む山田隆持社長

第1四半期の決算

スマートフォンが好調でパケットARPUが拡大

前年同期比と比べた営業利益の増減分のうち、バリュープランの利用者拡大により、音声収入が200億円減少するなど、全体では439億円減となったが、パケット収入は303億円増と拡大。端末販売収入は322億円マイナスで、それにともなって端末販売費用も308億円減少し、さらにネットワーク関連コスト95億円減、その他の費用290億円減が加わり、営業費用が692億円減少したことで、利益は2,677億円に拡大した。

ただ、基本使用料の50%割引の契約率は全体の8割を超えたことで、収入への影響は少なくなってきているほか、バリュープランの契約数が4,000万、全体の契約率は7割に達しており、同社の山田隆持社長は「バリュープランは拡大しているが、影響は減り続けている」とみている。

営業利益の主な増減要因

基本料50%割引・バリュープランの影響

重要な指標となるARPUでは、総合では同4.4%減の4,960円。音声ARPUは同340円減って2,340円。パケットARPUは同110円増の2,620円だった。音声ARPUはバリュープランの影響によって100円減少、課金MOUの減少分が150円で、利用時間は7分減少しているという。「ユーザーは音声でしゃべるよりメール(などのパケット利用)になっている」(山田社長)という。実際、減少するのは「夜9~11時に落ちている雰囲気」で、逆に同じ時間にはパケットARPUが増加しているという。

総合ARPUは下がっているが、パケットARPUがさらに拡大。収入も順調に拡大している

山田社長が「一番注目している」というパケットARPUは、プラス110円で「順調な出足」となった。スマートフォンの影響がプラス60円で、iモードは20円増、データプランで30円増という内訳だったという。前年同期に対してはパケットARPUが音声ARPUを逆転しており、前期に引き続き、パケットARPUが収入の5割以上となった。パケットARPUの増分は「当初想定したとおりで順調」であり、想定を上回っているという。

総合ARPUは減少を続けているが、山田社長は従来通り「2011年度は総合ARPUの底にして、12年度から増加に転じたい」という考えを示し、今後さらにパケットARPUの増加を図りたい考えだ。

端末販売数は、同0.6%と微増となる464万台。東日本大震災の影響で4~5月にかけて、特に「iモード端末の廉価版で品薄感があった」が、それも6月には解消。通期目標の1,980万台は変更しない。

第1四半期の純増数は、5月に「品薄感、新機種の買い控え」があったことから低かったものの6月には持ち直し、全体では41万増。通期目標の195万契約増の変更もない。

端末の総販売数

純増は5月に低迷したが、その後回復した

スマートフォンに関しては、6月末までの段階で130万台を販売。7月28日までで202万台に達しており、順調に拡大している。通期では600万台の販売を目指すが、「この勢いだと100万の余力がある」とみており、今後目標を上方修正することも検討する。端末別では、シャープのAQUOSシリーズが22万台程度、GALAXY S IIが33万台近く、MEDIAS WPが21万台、XPERIA acroが23万台と、それぞれ「非常に好評」だ。

スマートフォンラインナップの拡充で販売台数は順調に拡大している

2012年3月に停止予定のmova・DoPaについては、同期に21万の移行が行われ、残る97万契約の巻き取りも急ぐ。内訳はmovaが66万、DoPaが31万契約で、残り100万契約を切り、「着実に取り組んでいきたい」考え。「満足度の裏返しとして重要な指標」である解約率は0.05ポイント増の0.49%だが、他社より低い値をキープしている。

2Gから3GやLTEの移行も順調に進んでいる

解約率の推移

パケット定額制は当面見直さず

スマートフォンの拡大によるトラフィックの急増に対処するため、ドコモでは次世代通信サービス「Xi」への転換も急ぐ。第1四半期終了の時点で12.1万契約になり、7月28日時点では19.2万まで達し、通期では100万契約を目指す。14年度には1,500万契約まで拡大させたい考えだ。

Xiの契約数は増加中。今後端末ラインナップを拡充する

Xiを含めたデータ通信端末の拡大している

これまで、PC接続用の2機種、モバイル無線LANルーターを1機種発売しており、今後ルーターを1機種追加するほか、今年の秋モデルではXi対応タブレット端末を2機種、冬にはXi対応スマートフォンを4機種発売する計画。

トラフィックの増加に対しては設備増強、Xiの拡大などによるデータのオフロード、動的コントロールの3点から対策する考え。動的コントロールでは、大量のデータ利用者のスピードを落とすことで対応。無線LANやフェムトの設置によるデータのオフロードも力を入れていくという。

米国でデータ定額制の見直しが始まっていることに対して、ドコモではXiで月間利用量5GBを境に料金を追加するプランを採用している。現在はキャンペーンとして定額料金にしており、ユーザーの意見を参考に、今後の料金プランを検討していく。具体的には、5GBを超えた場合にどこまで料金が上昇するか不安という声があり、5GBに近づくと警告を出したうえで、「2つ(のプランから)選んでもらえるのがいいのではないか」という考えだ。1つはそのまま追加料金がかかるプランと、もう1つは速度が低下するが定額のというプランで、例えば月末に5GBに達した場合は、残る日数を低速度で我慢すれば、翌月には元の速度に戻る形になる。

「5GBには通常(の利用)の人はなかなか行かないと思っているが、スマートフォンの(利用)状況を見て、5GBを大きくするかどうかも検討したい」と山田社長。ただ、3Gのパケット通信については、「今のところフラット(定額制)で行きたい」としており、Xiエリアをさらに拡大すれば、ヘビーユーザーがXiに移行すると見ており、「3Gは当面見直さない」。

スマートフォンの拡大で、一部混雑したエリアでは、3G通信でもパケットが流れない、いわゆる「パケ詰まり」の状況が見受けられるとの指摘に対して、山田社長は「ネットワークの増強などで対応している」と語り、「新宿や渋谷でそういう状況を確認しているが、すでに渋谷では解消しているはず」という。今後も継続的に監視して対策していく考えだ。

スマートフォンユーザーの拡大に向けて、従来のiモードで提供してきたサービスの移行も進めており、夏モデルからiチャネルやメロディコールなどに対応。冬モデルではiコンシェルやコンテンツの課金・認証、マイメニューなどを提供していく。特に課金・認証プラットフォームの整備によって、従来のiモードサービスを提供してきた3,000社のコンテンツプロバイダーにスマートフォンへのサービス移行を促していく。

キャリアサービスのスマートフォン対応に加え、コンテンツプロバイダーの公式コンテンツのスマートフォンへの意向も促していく

従来、iモードサービス利用者は、スマートフォンへの機種変更でサービスを解約するなどの必要があったが、課金・認証プラットフォームが構築され、コンテンツがスマートフォンに移行することで、従来のサービスをそのまま利用でき、マイメニューがそのまま継続できるような状況を目指す。

スマートフォンを試せる「スマートフォンラウンジ」を最低1支社1店舗の割合で設置するとともに、スマートフォンのエキスパートの店員であるスマートフォンマイスターも拡充。すでに7,000人を突破し、1万人規模にまで拡大させたい考え。

ドコモ全体では、グローバル展開の強化、携帯向けマルチメディア放送の開始、サイクルシェアリングやワンタイム保険、医療保険、省エネ応援サービスなどの各種サービスによって「総合サービス企業への進化をやっていきたい」意向だ。

スマートフォンラウンジの拡大やエキスパートの拡充で満足度向上を図る

「伸びは鈍化している」(山田社長)ものの、インドでのサービスは拡大しており、中国やベトナムでのプラットフォーム事業も拡大する

新サービスの提供も強化していく

グリーン基地局を導入へ

東日本大震災の影響で被害を受けた基地局については、同期で55局を復旧させ、残り42局まで復旧した。9月末には全面復旧の見込みだ。さらに「首都圏直下型、東南海の地震が来る可能性が高い」ことから、新たな災害対策も急ピッチで進める。

破損した基地局の復旧状況

新たな災害対策の進捗

災害時に一部基地局から半径7kmの大ゾーンに電波を発射する基地局の大ゾーン化では、当初の年度内の予定を前倒しし、年内に100局で対応する。特に東京、東海地方を優先し、10月末までに対応。これによって人口カバー率35%のエリアは、「通信の途絶はまずない」状況にする。

基地局の無停電化は、予定の800局がすでに対応済み。停電時に利用するバッテリーの24時間化は東海地方の対応を優先的に進め、年内に1,100局に拡大する。緊急情報などを配信するエリアメールでは、すでに80自治体が利用しているが、7月からの無料化にともない、さらに100自治体から申し込みがあり、今後もさらに拡大していく見込みだ。

電力対策では、次世代グリーン基地局の研究開発も進める。バイオ、風力、ソーラーによるエコ発電、蓄電池によるピーク電力の削減を、「グリーン電力制御コントローラー」によってコントロールすることで、ピーク時の負荷削減、電力削減を目指していく考えで、今年度中に開発を完了し、12年度から一部で商用局を導入していく。

グリーン基地局の開発で電力不足などにも対応していく

さらにスマートグリッドを組み合わせることで、電力余剰の基地局から他地域への基地局へ電力を融通する仕組みも構築し、電力対策を実施していく計画だ。