新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)は、東京都健康長寿医療センター研究所付属診療所の石井賢二所長らの研究グループがNEDOが2007年度より進めているアルツハイマー病研究プロジェクト(J-ADNI)の研究により得られたデータと各国のデータを解析した結果、アルツハイマー病を発症する危険因子である特定の遺伝子型と脳内でのたんぱく質の蓄積との相関関係を見出したことを発表した。同成果は、フランスで開催された国際アルツハイマー病カンファレンス(ICAD2011)にて報告された。 アルツハイマー病の解明に向け、米国で2005年より「Alzeheimer's Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)」と命名された国家規模の臨床研究が開始され(US-ADNI)、現在では同様のプログラムが日本(Japanese-ADNI:J-ANDI)、欧州(EU-ADNI)、豪州(AIBL:The Australian Imaging, Biomarker & Lifestyle Flagship Study of Ageing)として進められ、アジアや南米諸国でも参画に向けた検討が進められている。

ADNIは、多数の高齢被験者に対し、「磁気共鳴画像法(MRI)を用いた脳容積測定、陽電子放出断層法(PET)による機能画像評価」などの神経イメージングと、「血液・脳脊髄液などのバイオマーカー測定」を2つの柱として、記憶検査などの臨床指標と共に、継時的に計測を実施し、軽度認知障害(MCI)からアルツハイマー病(AD)への進行を正確かつ客観的に評価する技術を確立させ、根本治療薬の開発に役立てようという取り組みで、心理試験、生化学検査、画像診断の撮像法、画像処理技術などの統一でデータの互換性を確保しつつ、国際連携による標準診断法の確立を目指している。

今回の研究では、PET・プローブとして11C-PiB(炭素放射性同位体でラベルしたPittsburgh compound B:PiB。これにより脳内のAβ蓄積部位をPET装置で検出することができる)を用い、脳内のAβたんぱくの蓄積をモニタした。日本人高齢健常者、軽度認知障害患者、AD患者を対象にアポリポたんぱくE(ApoE)の遺伝子型と共にAβたんぱくの脳内蓄積を計測し、US-ADNIおよびAIBLのデータを比較、解析した結果、アルツハイマー病の強力な危険因子として知られるApoE ε4の遺伝子型が人種を超えたAβたんぱく脳内蓄積の危険因子で有ることが判明した。

また、同遺伝子型を保有する高齢者被験者では、保有しない場合に比べ、より早期にAβ蓄積が始まることを見出した。

これらの成果について研究グループでは、今後、アルツハイマー病の早期診断、治療に向けて、画像診断情報に併せ遺伝子型を考慮した技術開発が重要となってくることを示唆するものと説明している。