東大、シュレーディンガー猫状態光パルスの量子テレポーテーションに成功

東京大学は、同大大学院工学系研究科物理工学専攻の古澤明教授らの研究グループが、量子力学の2大パラドックスである、シュレーディンガーの猫とアインシュタイン・ポドロスキー・ローゼン(EPR)のパラドックスをテーブルトップで同時に実現し、それらを組み合わせてシュレーディンガー猫状態光パルスの量子テレポーテーションに成功したことを発表した。同成果は米国の科学誌「Science」(4月15日号)に掲載された。

量子力学においてシュレーディンガーの猫とEPRのパラドックスは最も有名なパラドクスに位置している。シュレーディンガーの猫は、人間が直接見ることのできる巨視的なもの(=猫が重ね合わせの状態になるのか)、というパラドックス。一方のEPRのパラドックスは、量子もつれ状態にある2つの量子対は、空間的に離れていても片方の測定の影響がもう片方に及ぶのか、というもの。量子力学では1つの量子で1つの物理量のみ正確に決めることができ、2つの量子では2つの物理量を正確に決めることができる。2つの量子が量子もつれ状態にあるということは、2つの量子にまたがった物理量(例えば2つの量子の位置の差)が2つ決まっている状況であり、それは量子力学に反することはないが、片方の測定の影響がもう片方に及ぶことになる。

これらのパラドックスは20世紀初頭の量子力学黎明期においては頭の中で行う思考実験だったが、21世紀の現在の技術を用いることで、テーブルトップで同時に検証できるようになり、その具体的な形として今回研究グループは、シュレーディンガー猫状態光パルスの量子テレポーテーションを成功させた。

図1 シュレーディンガー猫状態光パルスの量子テレポーテーション実験装置

量子テレポーテーションは、量子もつれ状態にある2つの量子を情報の送り手と受け手で1つずつ持ち、送り手側で送りたい状態にある量子と、量子もつれ状態にある量子の片方を合わせて測定し(例えば2つの量子の位置の差)、その測定の影響が受け手にあるもう片方に及ぶことを用いて、送りたい状態を受け手側に出現させる量子操作。量子テレポーテーションは、量子操作としては恒等変換(1を掛ける)に相当し、これを改造する(プログラムする)ことで、種々の計算を行える量子コンピューターが可能となる。

シュレーディンガーの猫は、生きた猫と死んだ猫の重ね合わせの状態であり、観測すると生きた猫か死んだ猫のどちらかになるというもの。今回の実験では、これを位相が反転した光の波動の重ね合わせとして実現した。また、量子テレポーテーションでは、量子もつれ状態にある2つの光ビームを生成し、片方への測定がもう片方へ及ぶことを用いて、シュレーディンガーの猫状態にある光パルスを伝送した。これは、重ね合わせの状態を保って伝送に成功したことを意味しているという。

図2 シュレーディンガー猫状態光パルスの量子テレポーテーション実験結果。B、Dにおいて、上下2つは2つの光パルスに相当し、それぞれ生きた猫と死んだ猫に対応している。2つ同時に存在していることが重ね合わせの状態になっていることを表している。実験結果では、入力においても出力においてもこの状況が保存されていることから、シュレーディンガー猫状態光パルスの量子テレポーテーションに成功したことになる。A、DはB、Dを表現し直したものであり、真ん中が負の値を取ることが2つの光パルスを明確に分離できる指標となっている

ポイントは、シュレーディンガーの猫状態はそれを直接測定すると生きた猫か死んだ猫になってしまい、重ね合わせの性質が失われてしまうが、量子テレポーテーションでは、送信者側の測定が間接測定になるため、重ね合わせの性質を失わずに送ることができる。つまり、量子テレポーテーションは、測定により壊れてしまう重ね合わせ状態を送れる唯一の方法であり、今回、これを目に見える形で実現に成功したと研究グループでは説明している。

図3 シュレーディンガー猫状態光パルスを古典力学的に許される最適伝送を行った場合の出力シミュレーション結果。Bでは2つの光パルスの分離が失われている。また、Aにおいて負の部分が失われている。したがって、シュレーディンガー猫状態光パルスの伝送に失敗している。このような量子状態の伝送は量子テレポーテーションを行わないと原理的に不可能である

なお、同成果は、量子力学基礎の検証という意味のみではなく、量子情報通信や量子コンピュータの実現に向けた成果であり、特に、超大容量光通信への重要な一歩になると研究グループではコメントしている。



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