産業技術総合研究所(産総研)は、銅と酸素を主要な構成元素として高温で超伝導を示す化合物のモデルについて、電子の間に働くクーロン力により超伝導が起こりうることを理論計算により示した。同成果は、日本物理学会の科学誌「Journal of the Physical Society of Japan」にて発表された。

クーロン力が電子を引きつける「のり」として働き、超伝導を引き起こすかどうかは、銅酸化物が高温で超伝導を示すことが発見されて以来、20年来の課題であった。定説であるBCS理論では、通常の超伝導体では電子と原子振動との相互作用により超伝導が生じるので高い温度での超伝導は期待できないとされている。それに対し、もしクーロン力により超伝導が引き起こされるならば、より高い温度での超伝導が可能であると予想されている。この予想のようにクーロン力による超伝導が実現すれば、現在の超伝導状態への転移が起きる温度(臨界温度)の最高温度である絶対温度135K(-138℃:常圧下)程度から、より高い温度での超伝導技術の幅広い応用が期待されることとなる。

銅酸化物からなる高温超伝導体は電子の間に働くクーロン力が大きく、強相関電子系と呼ばれ、実験面、理論面ともに、電子の状態を明らかにすることが簡単ではない。産総研では、高温超伝導体の性質、超伝導メカニズムを明らかにするために、量子モンテカルロ法などを使った理論計算の研究を進めており、今回、これらの計算手法を、クーロン力が働く超伝導体モデルに適用し超伝導状態の解析を行った。

図1 銅酸化物高温超伝導体La2-xSrxCuO4の結晶構造(今回のシミュレーションは、矢印で示した面について行われた)

典型的な銅酸化物の高温超伝導体の結晶構造を図1に示すが、その物理的性質は、銅原子と酸素原子を含む面(図2)にある電子の状態によって決まると考えられている。研究チームでは、この二次元面上の銅原子の電子に着目し、クーロン力を考えたモデルを考え、量子モンテカルロ法を使って超伝導状態の理論解析を行った。

図2 銅・酸素面の構造。茶色が銅原子、青が酸素原子を表す(図1の水平面を上から俯瞰した図に相当)

高温超伝導の二次元面のモデルに対して量子モンテカルロ法を用いた計算機シミュレーションを行ったところ、コスタリッツ・サウレス型の相転移として超伝導状態への相転移が起こりうることが判明した。モンテカルロ法は、乱数を使って新しい配置を次々に生成していく方法であり、図3にそれによる配置の変化の一例を示す。

図3 モンテカルロ法による計算の進行に伴う配置の変化の例。ここでは、例えば、青が上向きスピン、赤が下向きスピンを表す

一辺にL個の銅原子がある平面(図1の矢印で示される平面)でシミュレーションを行ったところ、超伝導の強さを表す量がLの2乗に比例し(図4)、超伝導が面全体に広がっていることを表している。コスタリッツ・サウレスの理論によると、これは超伝導相の存在を示唆している。すなわち、クーロン力が電子対の引力機構として働いていることを示しているという。

同シミュレーション結果より、酸素と銅の結晶面をもつような化合物を合成することが、超伝導物質を得るための1つの指針と考えられるほか、クーロン力が大きくなると臨界温度も上がるものと予想される。

図4 超伝導の強さを表す量のサイズ依存性。一辺にL個の銅原子がある平面の広がり(L2)に比例しており、電子対が結晶面全体に広がっていることを示している。Uはクーロン力の大きさを示し、クーロン力が強くなると超伝導状態が強くなることがわかる

今回の計算は限られたパラメータに対して行われたものであるため、研究チームは今後、より多くのパラメータを使ってより高い臨界温度の可能性を明らかにしたいとしている。また、より高温で超伝導を含む新機能材料の探索のための指針を提供し、これらをもとにしたデバイスシステム設計などへの応用研究を進めることを計画している。