東京大学および国立天文台を中心とした研究グループは、「HAT-P-11」ならびに「XO-4」の太陽系外惑星系に対して、恒星の自転軸と惑星の公転軸の関係を測定し、それぞれの系で惑星の公転軌道が大きく傾いているという証拠を発見したことを明らかにした。

HAT-P-11 は、木星型惑星より一回り小さな海王星サイズの惑星を持つ系で、このように小さな惑星に対して2つの軸の関係を測定したのは今回が初めて。これらの観測によって、傾いた軌道を持つ惑星は意外とありふれている事が次第に明らかになってきた。惑星の軌道が大きく傾いた惑星系では、過去に巨大惑星同士が重力によって互いをはじき飛ばしたり、あるいは遠方の伴星からの重力の影響を受けて惑星の軌道が現在の位置まで移動したりしたと考えられており、このような惑星の新たな発見は惑星の軌道進化に関する理論を検証する上で重要な観測事実となると研究グループでは説明している。

太陽系外惑星は、1995年の最初の発見以来、これまで約500個程度が見つかっているが、そのほとんどは恒星の非常に近いところを公転する木星のような巨大ガス惑星だ。しかし、太陽系では木星や土星サイズの巨大惑星は太陽から遠く離れたところを公転しており、一般にこのような巨大惑星は、恒星からある程度離れ、惑星の材料となる氷などの固体物質が豊富に存在するような場所でしか形成されない事が理論的に分かっている。そのため、太陽系外で見つかっているような恒星の非常に近いところを公転する巨大惑星は、恒星から遠く離れた場所で形成された後で何らかのメカニズムで恒星の近くまで移動してきたと考えられてきた。

こうした恒星近くで公転する巨大惑星の移動を説明するメカニズムは、これまでも複数の説が提案されてきた。例えば、一般に惑星は原始惑星系円盤と呼ばれるガスでできた円盤の中で形成されたと考えられているが、成長する過程で惑星とガス円盤が相互作用をすると徐々に惑星が円盤の中心に向かって落ちてくる事がある(惑星落下モデル)。また、複数の巨大惑星が形成された場合、ガス円盤が晴れあがった後で惑星同士が重力的に影響を及ぼし合い、場合によっては互いにはじき飛ばされ、最終的に一方は非常に内側を公転する軌道をとるという事も理論的に予言されている(惑星散乱モデル)。その他、伴星または巨大惑星が外側に存在しているとその重力によって周期的に内側の惑星の軌道が変化し、場合によっては恒星の近くまで運ばれる可能性も指摘されている(古在移動モデル)。

これらの惑星移動モデルを検証する上で、中心星の自転軸に対する惑星の公転軸の傾きは重要な観測証拠となる。例えばガス円盤との相互作用による惑星移動モデルでは2つの軸はそろう事が予言されている一方で、惑星散乱モデルや古在移動モデルによる惑星の移動では2つの軸は大きく傾く可能性がある事が理論的に分かっている。

研究グループでは、すばる望遠鏡を用いてHAT-P-11とXO-4の2つの太陽系外惑星系に対してロシター効果と呼ばれる現象を観測、それぞれの系で惑星の公転軸が中心星の自転軸に対して傾いている証拠を見つけた。ロシター効果は、恒星の前を惑星が通過するような系において、食が起きている最中に見かけ上恒星の視線方向の速度が変化する現象。

ロシター効果の概念図。恒星は一般に自転しているため、左右に相対的に近づいている側(図の青側)と遠ざかっている側(図の赤側)に分かれる。惑星が恒星面上を通過して一部分を隠すような系では、近づく側を隠している際は見かけ上、星が遠ざかって観測され、逆に遠ざかる側を隠している際は見かけ上、星は近づいて観測される。この見かけ上の速度は時間に沿って変化するが、左上のように惑星によって隠される部分が青側と赤側で均等である時は左下のグラフように対称な変化となる。一方右上のように、惑星によって隠される部分がほとんど赤側の場合、星は食が起こっているほとんどの間右下のグラフように見かけ上近づいて観測される。そのため逆に、星の見かけの速度を調べる事で惑星の自転軸に対する軌道が分かる

視線方向の速度の時間変化から、恒星の自転軸に対して惑星の公転軸がどのように傾いているのかを推定する事が出来る。ロシター効果はこれまで35個程度の系に対して測定がなされ、すばる望遠鏡でもこれまでいくつかの系で測定がなされてきた。

今回新たに観測されたHAT-P-11は、はくちょう座の方向に地球から130光年ほど離れた場所にある惑星系で、海王星の1.3倍程度の大きさの惑星が楕円状の軌道を持って周期4.89日で公転している。これまでのロシター効果は、木星サイズ程度の大きな惑星に対してしか観測された事がなく、一般に惑星のサイズが小さくなると、恒星面上で惑星によって隠される割合が減るためロシター効果の検出は難しくなるため、太陽系外惑星の中でもかなり小さい部類に入る同惑星のような場合は観測が困難とされていた。

今回、研究グループは、すばる望遠鏡を活用した観測を2010年5月と7月に行い、海王星サイズの惑星に対してロシター効果の検出をした。結果、惑星の公転軸が中心星の自転軸に対して天球面上で約103°傾いているという証拠を得た。また米国のグループもハワイにあるケック望遠鏡を用いて同5月と8月に独立したロシター効果の観測を行い、同様の結果を得たという。

2010年5月にすばる望遠鏡で測定したHAT-P-11のロシター効果。この図は視線方向の速度変化のうち惑星の軌道運動による成分を取り除いたもので、食が起こっている(トランジット)の最中、星の視線方向の速度はずっと負になっており、恒星面上の遠ざかる部分だけを隠していると考えられる

もう1つ新たに観測されたXO-4は、やまねこ座の方向に地球から960光年ほどの距離にあり、木星の1.3倍程度の大きさの惑星が公転周期4.13日で円軌道を公転している。同惑星の観測はすばる望遠鏡で2010年1月に行われ、こちらもロシター効果の測定によって惑星の公転軌道が約47°傾いていることが明らかになった。この惑星でのロシター効果は、世界でまだすばる望遠鏡でしか観測されていないという。

2010年1月にすばる望遠鏡で測定したXO-4のロシター効果。軌道公転軸が中心星の自転軸とそろったモデルでは観測データとズレが生じてしまうが(図の破線)、軌道を傾けたモデルを使うと観測データをよく説明できるようになる

HAT-P-11とXO-4におけるロシター効果の観測結果は、これらの2つの惑星系が大きく傾いた公転軌道を持っていることを示唆しており、このように軌道が傾いた惑星が宇宙には意外とありふれていることがわかってきた。こうした軌道の傾いた惑星の発見は、その惑星たちが惑星散乱や古在移動によって移動した事を示唆しているが、個々のロシター効果の観測結果だけでは、惑星が惑星散乱、古在移動のどちらのメカニズムで移動したのかを判断する事ができない。

そのため今後、軌道の傾いた惑星の主要な移動メカニズムが惑星散乱と古在移動のどちらなのかを結論付けるには、観測結果の統計的な取り扱いが必要となると研究グループでは説明しており、この2つの異なるモデルは、恒星の自転軸と惑星の公転軸のなす角度に関して異なる分布を予言するため、多くの観測結果を集めて比較することで、モデルの正当性を評価する必要があるとする。

また今回のHAT-P-11bのように小さな惑星に対するロシター効果の測定はまだあまり行われていないものの、今後の惑星軌道進化の理論検証に向けては、小さな惑星の観測が重要な役割を果たすものとしている。

なお、ロシター効果の観測は、すばる望遠鏡を含め多くの研究グループによって計画されており、近い将来に惑星移動モデルの統計的な判別が可能になると期待されており、今後の継続的な観測により、惑星系がどのようにして形成、進化するのかが明らかになることが期待できるという。

すばる望遠鏡の観測によって推測されるHAT-P-11をまわる惑星の公転軌道の想像図