東芝は、次世代フラットパネルディスプレイ(FPD)の駆動素子として注目される酸化物半導体薄膜トランジスタ(TFT)において、バイアス温度ストレス(BTS)に対する信頼性が世界最高レベルのTFTを開発したことを明らかにした。12月1日より福岡国際会議場で行われている第17回ディスプレイ国際ワークショップ(IDW'10)において、3日に発表が行われる予定。

同社はモバイル機器の軽量化、薄型化に向け、ディスプレイのさらなる軽量化・薄型化を実現することを目指し、ディスプレイ基板を従来のガラスからプラスチックに変えることで、軽量で紙のように薄い次世代ディスプレイ「シートディスプレイ」の開発を進めている。

基板をプラスチックにするためには、TFTの形成温度を下げる必要があるが、一般的に温度を下げるほど、結晶性が下がり、電子の移動度が低くなり、高精細な映像が実現できなくなるという課題がある。高精細な画像が実現できる、電子の移動度が高い多結晶シリコン(poly-Si)では、TFTの形成温度が高いという問題があり、低温形成が可能なa-Siでは、電子の移動度が低いという問題がある。

そのため同社は、酸化物半導体TFTをシートディスプレイの駆動素子として着目し、研究を行ってきた。酸化物半導体は、TFTの形成を比較的低温で行うことができ、素子の伝導路が球状の電子軌道から構成されているため、アモルファス状態ではシリコン半導体に比べて、移動度が約10倍高いという特長がある。しかし、酸化物半導体TFTは、a-Siと同様、駆動によりしきい値電圧が変動するため、駆動信頼性を高めることが実用化に向けた課題となっていた。

今回同社は、酸化物半導体TFTの駆動信頼性と膜中の水素の動きに相関関係があることを見出し、酸化物半導体の成膜条件およびアニール温度を最適化するとともに、絶縁膜中の水素濃度を制御してガラス基板上に320℃で酸化物半導体TFTを形成することに成功した。

同技術にて作製したTFTの駆動信頼性を評価した結果、BTS試験(ゲート電圧±20V、70℃、2000秒)前後でのしきい値電圧変動量を50mV未満とし、a-Siの100倍、poly-Siとほぼ同等の信頼性を実現したという。なお、チャネル材料にアモルファスIGZO(酸化インジウム・ガリウム・亜鉛)を用い、キャリア移動度は13.5cm2/vを確保しているた。

また、同酸化物半導体TFTを用いて、ゲートドライバ回路を内蔵した3型の有機ELパネルを試作、駆動することも確認したという。

なお、今後同社は、酸化物半導体TFTの形成プロセスの低温化およびさらなる信頼性確保を進めていくことで、プラスチックを基板とした軽量・薄型の"シートディスプレイ"の早期の実用化を目指すとしている。