北海道大学と物質・材料研究機構(NIMS)は、分子エレクトロニクスでの利用が期待される有機薄膜型の光電変換分子素子において、光の利用効率を高める方法を開発したことを明らかにした。

光エネルギーの利用において、太陽光に含まれる光の成分をいかに有効利用するかが課題となっている。つまり、光を吸収する色素と太陽光スペクトルを一致させて、効率的に光を吸収し、エネルギーに変換することが求められているわけだが、植物の光合成反応では、光捕集アンテナとして作用するタンパクで光エネルギーを集め、光反応中心へ効率的にエネルギーを送り込む仕組みが整えられている。この自然界の光合成反応をモデルとして、人工光合成の研究が進められているが、このように複雑な構造を、分子の合成によって構築することは困難であった。

金属ナノ構造が示すプラズモン共鳴は、光局在化を伴うために光と分子との相互作用効率を向上させるのに役立つと期待されている。ナノ構造の形状によって共鳴波長を可視~近赤外領域で自在に変えることができるため、光アンテナとしての利用を目指した研究が各所で行なわれている。光アンテナ効果を得るには、光機能性分子をナノ構造の表面に近接させる必要があるため、これまでの研究では、金属ナノ構造の表面に有機分子層を構築する方法論が取られていた。しかし、このような金属ナノ構造においてその表面原子配列を精密に制御することは不可能であり、結果として、光アンテナ効果と金属表面積の増加による吸着分子量変化の寄与を明確に区別することさえできないほど混沌とした状況が続いていた。

今回の研究では、金属ナノ構造の表面に光機能性分子層を構築するのではなく、表面の原子配列を制御した金属の平坦面に分子層を構築し、後から金ナノ粒子で分子層を挟み込んで光アンテナ構造を構築することを提案。同構造では、金ナノ粒子が数nm厚の分子層を挟んで金属電極に近接した状態となる。この時、ナノ粒子と基板間のプラズモンカップリングにより、ギャップモードプラズモンと呼ばれる光局在度の高いプラズモンモードが生じる。

ギャップモードプラズモンの共鳴特性は、ナノ粒子の直径とギャップ距離の比で決まるため、分子層厚さで精密にギャップ距離が制御された状況においては、ナノ粒子の粒径制御で精密に光アンテナの特性を制御出来ることになる。それにより、光電流の値が光アンテナの共鳴特性と一致する増強を示し、最大の増強度を示した波長670nmにおいて、光アンテナ1個につき50倍の大きさになることを実験的に確認することに成功した。

光機能性有機薄膜で修飾した電極で適用可能な光ナノアンテナ構造(左)と光アンテナの有無による光電流応答の励起波長依存性(右上)およびアンテナ共鳴特性と光電流増強度の波長依存性(右下)。670nm付近での平均増強度20倍は、アンテナ1つにつき50倍の増強度に相当する

今回の研究は、純粋にプラズモン共鳴の効果だけで光機能性分子膜における光利用効率が向上することを明確に示した初めての例であることに加え、分子デバイスにおける界面構造制御の重要さを示したことが、今後の分子薄膜デバイスの開発に重要な知見となると研究チームでは見方を示している。同研究で用いた光アンテナ構造は、プラズモン共鳴特性を制御することが容易な上、さまざまな分子修飾電極への適用も可能であることから、応用範囲の広いアンテナ構造といえ、今後さまざまな機能性分子膜との複合化を図り、光で駆動する分子超薄膜デバイスの実現を目指す計画としている。