Intelのデータセンター事業部 副社長兼マーケティング本部長のBoyd Davis氏

Intelの日本法人であるインテルは11月11日、10月27日(米国時間)に発表したクラウドベース・コンピューティングに向けた取り組みに対する自社のデータセンター事業部の戦略などを公開した。

同社データセンター事業部は約1年前に設立された新しい組織で、対象とする領域はエンタープライズ・データセンター、HPC、クラウド・サービス・プロバイダなどで、「事業部の規模はIntelの売り上げの1/5、営業利益の1/4を占める」(Intelのデータセンター事業部 副社長兼マーケティング本部長のBoyd Davis氏)という。

次世代のビジネス、社会を結ぶコミュニケーション、新しい発見を活性化するインターネット・インフラストラクチャの定義と実現を目指した事業部であり、「そうしたインフラの実現には4つの物事を考える必用がある」とDavis氏は指摘する。

次世代インフラを実現するための4つの領域における条件

1つ目は「効率的」であり、いかに効率よく性能対消費電力比を向上させるかがポイントとなるが、「この1年間でIntelはデータセンター向け製品群を刷新してきた」(同)とし、それぞれの製品に対し、電力効率の向上と低価格化を図り、経済性を確保した結果、「Intelはデータセンターのワークロードにおけるリーダーシップの維持に成功している」(同)とした。

この1年間で登場してきたデータセンター向けプロセッサ群

2つ目は「シンプル」で、標準アーキテクチャへの移行がサーバのみならず、ストレージやネットワークアプライアンスにも進展してきていることを指摘。「ストレージではXeonベースの製品が70%に達している。また、ネットワーク機器についてもCisco SystemsがXeonを採用するなど、適用が拡大している」とした。

サーバでのXeonの活用はもとより、ストレージやネットワークアプライアンスでの適用も着実に増えてきている

3つ目は「セキュア」。Davis氏は「セキュアな環境を維持することは、ほとんどの企業において最重要事項」とし、Intelとしても、性能の向上だけではなく「Intel Trusted Execution Technology(Intel TXT)」といった技術を用いることで、仮想化環境下においてもセキュアな状態を確保できるようになったとするほか、「Intel Advanced Encryption Standard New Instructions(AES-NI)」の活用による暗号化パフォーマンスの向上により、適用領域の拡大が可能となり、「ユーザーは暗号化などをこれまで性能が足りず使用できなかった領域に対しても、アプライアンスなどを用いずに利用できるようになった」とした。

TXTやAES-NIを活用することで、よりセキュアな環境を確保することが可能となる

そして4つ目は「オープン」で、ソリューションの互換性を各ベンダが確保することは、運用の容易性を向上させる結果につながるが、「Intelの技術を用いることでそのベースを確保することができるようになる」ということを強調した。

クラウドによるITの根本的な変革

2010年のインターネット上でやり取りされる総データ量は175EBと予測され、これは2009年までにインターネット上でやり取りされた過去の総データ量150EBを1年で軽く超えるトラフィック量となる。こうしたトラフィック量の増大に対応するため、Intelも消費電力当たりの性能の向上やアイドル時の消費電力低減によるサーバの性能向上を進めてきたが、「インフラの性能として、抜本的な見直しが必要な時期に来ている」と同氏は指摘、ITを取り巻くさまざまな課題に対処するためには、インフラの進化が必要だとする。

Intelが掲げる「クラウド2015ビジョン」のイメージ

そこで同社が提唱しているのが、「クラウド2015ビジョン」だ。同氏は「このビジョンはIntelだけでなく、業界全体のビジョンととってもらっても良い」とするが、根幹となるのはインターネットに接続する機器の増加に対し、そうした機器間、データセンターとクライアント間などのシームレスな接続と人手を介さず自動的にサービスとリソースの指定、配置、セキュアなプロビジョニングの実行、そしてクライアントがどのようなスペックのものであるのかを認識し、その機器と利用モデルに最適化した形で対応するという考えで、「10月に設立されたOpen Data Centor Alliance(ODCA)により、クラウドの進展を業界一丸となって、前倒しを図っていく」という。

ODCAの概要

ODCAはエンドユーザーによる組織であり、Intelそのものは技術顧問としての立場のため、各種標準化に向けた要件定義などについてのアドバイスは出来るが、その決定権はないという。「ODCAは業界がエンドユーザーに向けて何を提供できるのかを話し合う場」であり、すでに70社以上の企業がグローバルに参加している。

現在、利用モデルの要件定義を進めており、2011年第1四半期には「1.0 ロードマップ」が公開される予定で、Intelとしては、「各種の機能を提供することで、こうした要求に対するサポートを図っていく」としており、その一環が「Intel Cloud Builders」プログラムとなるとする。

ODCAの利用モデル・ロードマップと今後の予定

同プログラムは、「相互運用性が実証済みのリファレンスプログラムやリファレンスアーキテクチャをIntelとパートナー各社から提供する」ことで、企業のIT部門のクラウド導入支援を図るというもので、現在、20種類のリファレンスアーキテクチャが利用可能な状態となっている。

「Intel Cloud Builders」により実証済みソリューションが提供され、IT部門はそれらを活用することで、クラウドの導入を加速することができるようになる

HPCをもっと使いやすく

こうした動きの中で、Davis氏はHPCの世界が導く新たな発見や技術の重要性は経済の発展にも重要な意味を持つとするが、「ハイエンドのHPCはまだまだ活用できるユーザーが限られており、HPCを使いたいけど、そこまでリソースをかけられないという、いわゆる"中間が欠けた状態"が存在する」と指摘。クラウド上にHPCを存在させることで、より多くも人がHPCの活用が可能となり、「拡張性を容易に享受できるようになる」という。

スーパーコンピュータやHPCといった分野は設備投資などに費用がかかるため、使いたくても使えないというユーザーは多いというのがIntelの見解で、これをクラウドサービスとして提供することで、ユーザーは設備投資をしないで、かつ利用したいときだけ、HPCのパフォーマンスを活用できるようになるという

そうしたクラウド環境下でのHPCの活用に向け同社が開発を進めているのが「Intel Many Integrated Core(MIC) Architecture」だ。すでにMICとして、「Knights」ファミリを発表、一部の開発者に向けて設計および開発キットとして「Knights Ferry」の提供を開始しているほか、22nmプロセスを採用した第1弾製品「Knights Corner」も開発を進めている。

MICアーキテクチャとマルチコアアーキテクチャの違い

ソフトウェア開発者向けに一部先行配布されているKnights Ferryの概要

Xeonで従来どおりの処理を行わせ、MICを並列演算を行わせるコプロセッサとして活用するというのが現在の同社の考え方

「Knightsシリーズは、Xeonと共存する形で提供される」ということで、Knightsを並列コンピューティング向けコプロセッサとして活用することで、従来遺贈の演算性能を実現することを目指す。Intelとしては、これまで研究者などが活用してきたプログラムをそのまま生かす形でのソフトウェアを提供する方針としており、コンパイラの機能強化などを図っていくとする。また、「市場には複数の並列コンピューティング向けソリューションが存在している。Knightsにおいては、そうした競合と比べてもリーダーシップをとれる性能を発揮できるようにしていければ」との期待を覗かせた。

Knights Ferryの実物も公開された