エルピーダメモリは11月4日、2011年3月期上半期(2010年4~9月)決算業績を発表した。売上高は前年同期比93.0%増の3251億3200万円、営業利益は前年同期の414億8200万円の損失から678億9900万円の黒字へと益転を果たし、経常利益も同520億4600万円の損失から522億7700万円の利益へ、純利益も同516億1500万円の損失から398億8800万円の利益へとそれぞれ益転を果たした。

2011年3月期上半期の業績

同第2四半期(2010年7~9月)のDRAM市場は、欧米経済の低迷や先行き不安などにより、個人向けノートPCの販売が伸びず、PC向けDRAMの市場価格が8月以降急速に下落。1Gビット DDR3 1333Mbpsのスポット価格で、4~6月平均が2.81ドルであったのに対し、7~9月平均が15%下落となる2.38ドル、9月30日時点では同27%下落の2.05ドル、以降も下落は続いており、11月3日時点では1.89ドルまで下がっている。

1GビットDDR3 1333Mbpsのスポット価格の推移とPC出荷台数推移

一方、スマートフォンを中心とした携帯情報端末の販売は第1四半期に引き続き好調で、モバイルDRAMを中心とするプレミアDRAMが堅調に推移したことが黒字を維持した要因と同社では説明している。

プレミアDRAMとコンピューティングDRAMの売り上げ推移

これにより同社は営業キャッシュフローが2010年3月期第3四半期から4半期連続、フリーキャッシュフローが同第4四半期から3四半期連続で黒字を持続。同社代表取締役社長の坂本幸雄氏は、「2008年、2009年のリセッションに、キャッシュについて考えて活動してきた。これまでフリーキャッシュフローが黒字になったことは数えるしかなかった。今回3四半期連続で黒字を実現したことは、エルピーダが変わってきた証拠」と評した。

エルピーダのキャッシュフローの推移

ただし、財政状況については、「競合に比べてまだ悪い。200億円程度でRexchip Electronicsのすべての生産を30nmクラスに対応させることができるので、そういうことでキャッシュフローの改善を進めていく」とした上で、40nm以下のプロセスにおいては、PC向けと携帯機器向けで要求仕様が異なってきているとし、「台湾のR&Dセンターの人員を拡充し、PC向けを台湾、携帯機器向けとコア技術の開発を広島で行っていく」という考えを示し、将来的にはRexchipでPC向けを、エルピーダで携帯機器向けDRAMの製造を中心と行っていく形にしたいという意向を示した。

エルピーダの財政状況

また、10~12月期の前四半期比のビット成長率を約10%程度と見積もりながら、「ここまではいかないと思う」との考えを示し、「もし成長しなくても気にしない。それ以上に損益を重視してビジネスを行っていく」ことを強調、通期のビット成長率についても40%弱としながらも、「生産調整でもう少し落ちる」との見方を示した。

さらに、現在開発を進めている30nmプロセス台の2Gビット DDR3 SDRAMについては2010年12月よりサンプル出荷を開始し、早ければ同時期に、遅くとも2011年第1四半期中には量産を計画しているとした。同製品が製品化された場合、チップの取れ数では従来の4Xnm世代比で45%増となり、他社を圧倒できるとの見方を示すほか、2Gビット LPDDR2 MobileDRAMについても「自社の4Xnmプロセスは、他社の4Xnmプロセスに比べ8F2のメーカーと34%、自社同様の6F2とも16%ほど取れ数が多く、また歩留まりも現在は苦労しているが、12月になればPC向けDRAM並みの歩留まりを実現できる」とのする。

同社では今後、MobileDRAMに注力していくとしており、「タブレットPCはタッチパネルが不足して生産制限が成されているが、部材が揃えば一気に拡大し、2013年ころにはスマートフォンの半分くらいのDRAMを消費する」とし、「今後3年間を見ると、2010年はPCオリエンテッドからMobileオリエンテッドへ移行するエポックな年になる」と表現、2011年1~3月期において、MobileDRAMを大きく伸ばしていく考えを示し、すでにさまざまなメーカーとの契約にもこぎつけているとした。

消費者のマインドはノートPCからスマートフォンやタブレットPCへとシフトしているとの見方を示す。また、中国などではタブレットPCを教科書として使う(他のアプリケーションは一切入れない)ことを国に対して働きかけようとしているとのことで、年間2000万人が就学することを考えれば、自動的にそれだけの需要が生まれることとなるという

また、ノートPCに搭載されるメモリ量は現状、多く見積もっても2.7GB程度、2011年第2四半期ころにようやく4GB程度になるとの見方を示しており、新たな需要喚起を呼びづらい状況にあるとする

こうした状況を踏まえ、同社ではPC向けDRAMの生産能力(月産23万枚)を、現時点でそこまでの需要がないと判断、約6万枚減となる月産17万枚規模へと生産計画を見直した。この時期は少なくとも2011年2月ころまでは続ける必要があるとするほか、他社の動向については、台湾の米系DRAMベンダは歩留まりが悪いので気にしないとするほか、韓国系ベンダはフラッシュメモリの需要が増しているので、そちらにシフトするか、あるいは「我々の話に納得して、もしDRAM価格が1.5ドルを切るようなことがあれば、追随する可能性もある」とする

ただし、「円高、1ドル80円はいかんともしがたい」と円高の現状を指摘、実際にプロセスの微細化や歩留まり向上による製造コストの低減を進めても、円高の影響で売上高や利益の減少が大きいとし、「諸外国は直接、間接問わずに為替介入を行っている。日本だけ高楊枝でやらないのは疑問が残る。為替を一定にキープするのは国益。国益を守れない政治家しかいないなら海外に出て行くしかない。FTAやTPPで農業分野に打撃があるという向きもあるが、我々は自由貿易の中でビジネスを行ってきた。農業もそうすれば、海外で日本ブランドの果物や米として高く売れはず。そうしないことはむしろ個人的には疑問」と持論を展開。「政府が変わらなければ、我々が変わるしかない。エルピーダも韓国にオフィスをオープンさせた。韓国の家電にDRAMを買ってもらわなければシェアが落ちるためだ。携帯電話メーカーは2社、家電メーカーも3社程度だが、いずれも大手で効率は良い。家電でもなんでも海外にそうして品物が出て行っている。そういった流れで本当に良いのか。企業が健全に育つ土壌を作ってもらわなければ、外に出て行くしかない。政府がやってくれなければ、したくはないが、そうするしか道はなくなる」と現在の円高を是正することが非常に大きなポイントになってくることを強調した。