宇宙航空研究開発機構(JAXA)は10月20日、10月26日より2011年2月6日まで東京・上野の国立科学博物館にて開催される「空と宇宙展 -飛べ! 100年の夢」において、展示される小型ソーラー電力セイル実証機「IKAROS(イカロス)」の"帆(ソーラーセイル)"の展開の様子を報道陣に公開した。

上野公園に設置された「空と宇宙展」の案内看板。正式公開は10月26日のため、「予告」のマークが付いている

ソーラーセイルは、太陽光圧の力を受けて推進力を得る膜で、膜質はポリイミド樹脂にアルミニウムを蒸着させ光の反射率を向上させたもの。膜圧は7.5μmで、その上に薄膜太陽電池や温度センサ、ダストカウンタ、姿勢制御に用いられる液晶デバイスなどが搭載されている。

IKAROSの1/20スケールのモデル

こちらはJAXA相模原に展示されている1/1スケールのはやぶさのモデル。IKAROSの1/20スケールもそうだが、展示会に公開するため、JAXA相模原から持ってきたとのこと

今回展示される膜面は、宇宙で不測の事態が膜に生じた際などに検討などを行うために用いられるフライトスペアで、実際に宇宙で展開したものと同じものとなっている。とは言っても、長辺が14mもある膜のため、4面すべてを展示というわけではなく、1面(1ペタル)のみの展示となっている。

雑然と、まだ展示物なども置かれていない展示フロアにて、展開作業が行われたIKAROSの帆。台形の帆の上底(長辺)が14m、下底(短辺)が3.2mで、高さが約6mながら、3.5kgの重量に抑えている

JAXA 月惑星探査プログラムグループ 研究開発室開発員の澤田弘崇氏。IKAROSの開発チームは少人数だったこともあり、修士課程や博士課程の学生なども多数、開発の深いところまで関与しているとのことで、この日も作業手伝いに複数の学生が応援に来ていた

膜1面の重さは約3.5kgで、その大半が液晶デバイスや太陽電池パネル、配線となっているほか、「接着剤が以外に重く、総重量の約10%程度の割合」(JAXA 月惑星探査プログラムグループの澤田弘崇氏)とのことで、「2010年代後半にソーラーセイル技術とイオンエンジンを組み合わせた木星探査機の打ち上げを計画しているが、その膜の長さは100m程度と考えられており。その時、接着剤も今のままでは非常に問題になる重量となる」(同)とのことで、今回も面の短辺付近などは圧着方式を用いて接着剤を省く工夫などが施されているという。

これまでJAXA相模原などで公開されてきた膜の様子は上が短辺で下が長辺と、今回とは逆の形で、この形での展示はJAXAスタッフも初めて見たという。実際に、この規模の膜を地上で展開実験を行おうとしても、例え高速回転させて開かせたとしても、「空気抵抗があるため、本番の挙動とは異なる」(同)とのことで、そのため、「一部分たけ実証実験を行い、後はシミュレーションのみでの打ち上げだった」(同)ことから、「実際に分離カメラが撮影したことで、膜が完全に展開している様子を関係者も初めて見ることが出来た。今回の展示はそれに近い形となっているので、地上でそうした本番に近い姿を多くの人に見てもらえれば」(同)と展示会に対する期待も語ってくれた。

IKAROS展開の様子

帆の上部分が液晶デバイス。下が太陽電池パネル。中央の画像が液晶デバイスの電源がオフの時、右の画像が液晶デバイスの電源がオンの時。ちなみに電源は100Vながら電流は非常に小さいとのこと

なお、現在のIKAROSは通信不能帯を超え、地球から約3000万km、金星とも0.1AU(1500万km)の距離を航行しているという。「液晶デバイスによる軌道制御なども行っており、ほぼフルサクセスを達成した状態」(同)とのことで、今後はガンマ線バーストなどの計測も含めて、IKAROSと通信が可能な限り、データを収集していきたいとしている。

澤田氏と帆。左下に見えるのは帆を畳んで収納している膜展開用の機能確認モデルで、本来ならば2009年の気球によるテストで用いられるものだったとのこと

IKAROSの膜展開の様子が分かるモック

ポリイミド樹脂膜の見本。銀色の方がアルミの蒸着面で金色の方がポリイミド面。7.5μmの薄さは一般の衛星で用いられるポリイミド膜に比べるとかなり薄いという

動画
モックを使ったIKAROSのセイル展開の様子(wmv形式 10.2MB 2分39秒)
液晶デバイスを実際に電源をオン/オフして稼働させた様子。再生時がオンで、15秒あたりからオフとなる(wmv形式 5.29MB 35秒)