国立天文台と東京大学(東大)を中心とする国際研究チームは南米チリのアステ望遠鏡と赤外線天文衛星「あかり」を用いた共同観測により初期宇宙の爆発的星形成銀河を約200個発見したことを発表した。

同観測から、発見された銀河のほとんどが地球より80億光年以上離れた位置にあり、年間に1000個の星を作り出しているいわゆる「モンスター銀河」であることが判明している。

アステ望遠鏡と今回とらえた初期宇宙の姿(差し渡し1.1度の斜めの領域)。明るい点1つひとつが爆発的に星形成をしているモンスター銀河で、画像の中には196個のモンスター銀河が映し出されている(右上の拡大図は、モンスター銀河の想像図)

これまでに行われてきたミリ波・サブミリ波の観測はカメラの観測スピードに限界があるため、その観測領域は僅かであった。 また、カメラの感度や解析手法の問題、観測地における大気の影響なども高感度の観測を困難とする要因となっており、ごく一部の明るい銀河しか検出することが出来なかった。

今回、国際研究チームは、アステ望遠鏡に搭載された「アズテックカメラ」を用い、南半球の星座「がか座」の方向を観測。同望遠鏡は、アンデス山脈の標高4800mに設置された口径10mのサブミリ波望遠鏡で、観測地の気圧は平地の約半分で大気の影響が少ないため、ミリ波・サブミリ波観測に適した場所となっている。また、アズテックカメラは、共同研究者であるマサチューセッツ大学のグループが開発したカメラで、最新の観測装置と解析手法を導入することで、従来の10倍以上の速度による高感度観測を実現した。

観測が行われた領域は、地球から見て天の川銀河の塵が最も少ない方向で、「天の川銀河の窓」として知られる領域。 日本の赤外線天文衛星「あかり」や海外の大型望遠鏡が重点的に観測を行っている領域でもあり、研究チームは、アステ望遠鏡とあかりの双方を用いることで初期宇宙のモンスター銀河の探査を行った。

その結果、アステ望遠鏡の観測により初期宇宙の銀河を198個発見。あかりが撮影した赤外線画像と比較した結果、198個中196個が80億光年以上かなたに存在する銀河であることが判明した。これらの銀河は、天の川銀河と比較して数100倍から1000倍の勢いで星をつくりだしているモンスター銀河であり、このような初期宇宙のモンスター銀河を、高い割合で大量に発見したのは世界で初めてとしている。

観測領域の一部分について、アステ望遠鏡の画像(赤)、可視光画像(青)、近赤外線画像(緑)を重ねたもの。アステ望遠鏡の画像には、可視光や近赤外線では見えていないたくさんのモンスター銀河が映し出されている

また、高感度観測により、これまで観測の難しかった暗い銀河も多く検出された。研究チームは、モンスター銀河の明るさごとの個数を算出。複数の理論モデルと比較したところ、今回の観測結果をうまく説明できるものはなく、結果として銀河形成理論に修正を迫る成果になるとの見方を示す。

今回の観測で見つかった銀河の明るさごとの個数(赤点)。3つの曲線は、理論からの予測。観測結果から、明るい銀河ほど数が少なく、暗い銀河ほど多いという分布がみられている。しかし、現在の理論では、明るいものが多すぎたり、逆に暗いものが多すぎたりと、観測結果をうまく説明できないものとなっている

さらに、ミリ波・サブミリ波を用いることで、可視光・近赤外線では検出できない「埋もれた」星形成活動の調査も実施。結果、埋もれた星形成活動は、初期宇宙での星形成活動全体の10%から20%に達することが判明し、高感度観測による結果から推定される暗い銀河も含めると、宇宙の星形成活動全体のおよそ50%が「埋もれて」いると考えられる結果となったとする。

過去から現在までの宇宙における星形成活動の変遷。青で表した部分は、これまで主に可視光・近赤外線で調べられた宇宙の星形成活動。赤で表した部分は、今回の観測から明らかになった「埋もれた」星形成活動。埋もれた星形成活動は、初期宇宙での星形成活動全体の10%から20%に上ることが判明し、暗い銀河も含めると、宇宙の星形成活動全体のおよそ50%が「埋もれて」いると推定されるとしている

今回の結果は、宇宙における星形成活動や銀河形成過程、さらにはダークマターの分布を解明する上で重要な成果です。 研究チームは、得られたデータを世界の研究者に公開し研究に役立ててもらいます。

研究チームでは、今回の観測により見つかった大量の銀河のほとんどは、80億光年以上遠方にあることがわかったが、正確な距離は分かっていないほか、観測では見つからなかった暗い銀河も多くあると考えており、今後は、より高感度の観測を行うことで暗い銀河までとらえ、それらの正確な距離や分布を求めることで、宇宙の星形成活動の歴史や銀河の形成過程、ダークマターの分布を詳細に明らかにしたいとしている。また、 得られたデータを世界の研究者に公開し研究に役立ててもらう予定としている。