Thomson Reutersは9月21日、10月4日より予定されているノーベル賞受賞者の発表に先駆け、同社のデータベースなどを活用して「ノーベル賞有力候補者(Thomson Reuters引用栄誉賞)」を選出したことを発表した。

同社が今年のノーベル賞として有力候補として掲げたのは21名。そのうち、日本からは医学・生理学分野で京都大学iPS細胞研究所長・物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)教授の山中伸弥氏、化学分野で京都大学iCeMS副拠点長・教授の北川進氏、そして経済学分野では、2002年より同社が候補者発表を定期化して以来、初めての日本人として米プリンストン大学教授の清滝信宏氏が選出されている。

同候補の選定基準は、過去20年以上にわたる学術論文の被引用件数に基づいて、各分野の上位0.1%にランクインする研究者となっており、主なノーベル賞分野における総被引用数とハイインパクト論文(各分野において最も引用されたトップ200論文)の数を調査し、ノーベル委員会が注目すると考えられるカテゴリ(物理学、化学、医学・生理学、経済学)に振り分け、各分野で注目すべき研究領域の候補者を決定するというもの。

用いられるデータベースは、同社の学術文献引用データベース「Web of Science」で、同社では過去30年以上にわたる研究から、学術論文の被引用数と同分野における研究者間での評価には強い相関関係があることが分かっており、論文の引用頻度が高いことは、学術分野における影響度の大きさを示していると説明する。

今回、選定された21名は医学・生理学が6名、物理学が7名、化学が4名、経済学が4名となっており、日本人3名のほかは、米国が13名、カナダが2名、フランスが1名、オーストラリアが1名、英国が1名となっている。

医学・生理学分野の今年のノーベル賞有力候補者

物理学分野の今年のノーベル賞有力候補者

化学分野の今年のノーベル賞有力候補者

経済学分野の今年のノーベル賞有力候補者

同社日本法人トムソン・ロイターの学術情報ソリューション 統括マネージャーの渡辺麻子氏は、同予測について、「同候補者予測は、論文引用数から重要な業績をノーベル賞級であることを示す記録として示すもので、よく引用されている著者がパイオニアであるのか、あるいは最初の発見者であるかを示すような引用が認められる論文を対象としている」と説明、その成果と最近のノーベル賞の傾向を比較、社会的影響などを加味して決定しているとする。

Thomson Reutersにおける候補者予測の選定プロセス

なお、候補者は年ごとに選出されるが、候補者の1人として翌年にも繰り越し累積されていく方式を採用しており、日本人は2002年から2010年までの間に今回の3名を含め12名が名を連ねており(故人含む)、全世界でも117名が選出され、この内15名が実際にノーベル賞を受賞している(なお、この数値に意味があるかと言われると、同社としては、例えば化学分野ではトップ0.1%でも700名程度と数が多く、そこから地域性などを加味して絞っていく作業が含まれ、そうした要因がノーベル賞の選考委員とどれだけ近いかが問題になるとしている)。

ノーベル賞有力候補者(Thomson Reuters引用栄誉賞)として2002~2010年の間に選出された日本人一覧

今回の3名の日本人選出について、同社学術情報ソリューション シニア・ディレクターの棚橋佳子氏は、「今年の日本人3名というのは、お世辞ではなく、日本人がそろそろノーベル賞を受賞しても良いという高いレベルの論文発表を行っている証拠」とその背景を解説。

山中教授については「医学や生理学分野での多数の受賞履歴があるが、例えば2009年には25本以上の論文を発表しており、Web of Science上では74本の論文が登録、総引用数は6779件となり、1論文あたり91.61件の引用件数となっている。今年選出された理由については、1つの論文について2008年で420、2009年で583、2010年の9月時点ですでに608件の引用が行われており、非常に重要な成果であることが見て取れる」と選出理由を説明。

北川教授については「論文は378件で、総引用数は1万5867件。もっとも引用されている論文は累計で2736件で、同系の研究を行っている(今回の候補者でもある)米国のOmar M.Yaghi氏の論文が非常に伸びていることから注目。先に発表を行った北川氏も候補となった」とし、清滝教授については、「(今回の候補者でもある)John H.Moore氏との共同研究などによる論文などが注目を集めており、毎年、引用件数が伸びている。"清滝ムーアモデル"という形で一般化(教科書化)すると、引用件数は落ちる傾向にあるが、同氏の論文にはそれがない」ことが主な理由となったと説明する。

ノーベル賞の選考としては、近年、90年代などの論文などをベースに受賞する人が出てくるなど、早い段階での成果としての話題性も加味されるようになってきており、他の受賞歴なども含められるようになってきている。同社では、研究者コミュニティでの評価などを含めて、そうした要因を比較していくことで、ノーベル賞候補者となるような世界トップレベルの研究者を選出していければとしている。

下線の人物が同社予測候補者でノーベル賞を実際に受賞した人たち