電子出版が紙の出版を駆逐するという話が一部でささやかれるなか、いまだ紙の印刷物は市場の重要な位置を占めている。こうしたなか、英語辞典の名著「Oxford English Dictionary (OED)」の出版で知られる英Oxford Univerisity Press (OUP)は8月31日(現地時間)、同社の辞書出版に関するスタンスという異例の声明を出した。それによれば、同社にとって今後も紙の辞書は重要な存在であることを前置きしつつ、現在は「OED Online」といったインターネットを使った電子辞書にも力を入れており、さらに10年後に登場するとみられるOEDの第3版についてはまだその出版形態が未定だという。一見不可思議な声明文だが、その実は長期的視点で出版業態が大きく変革する可能性を示唆するものなのかもしれない。
OEDの歴史は長い。いわゆる"英語辞典"では代表的な存在であり、その歴史は100年以上にも及ぶ。フル規格のOEDは数万ページに及ぶ巨大辞書集であり(Wikipediaのページを参照)、初巻が刊行されたのが1888年、このシリーズがすべて揃ったのが1928年になる。その後、第2版の編纂がスタートし、こちらの完成版(OED2)がリリースされたのが1989年だ。OUPによれば、現在80名の編集者/学者のチームが第3版の作業にあたっており、その進捗状況は28%程度だという。完成版のリリースまでにはまだ10年近くはかかる見込みで、今回の話題のポイントは、この第3版がどのような形で出版されるのかという点だ。
OUPではOED以外にも、500点以上の辞書やシソーラス(Thesaurus: 類義語辞書)、言語参考書など出版しており、カバーする言語も40を超えるという。出版形態も紙にこだわらず、CD-ROMや前述の「OED Online」といったオンライン辞書など、紙と電子データを組み合わせたさまざまな媒体をカバーしている。特にOEDはオンライン出版の特性を活かし、3ヶ月ごとの新語追加や改定でメンテナンスを繰り返しているほか、今年12月にはサイトデザインを一新した新バージョンの提供を行っていくという。
このように、すでに電子媒体への対応も行っているOUPが、なぜいまのタイミングでわざわざ10年以上先に登場予定の辞書の出版形態に言及しているのだろうか? 理由の1つは、急速に拡大しつつある電子書籍と、ユーザーの利用形態の変化にあるとみられる。OUPが冒頭で前置きしているように紙の出版物の重要性が今後も引き続き存在する一方で、その利便性から電子媒体を通して辞書をツールとして利用するユーザーは今後増加し続けるだろう。とくに全編合わせて20冊を超えるOEDは書棚の肥やしには最適な一方で、使い勝手向上のためには新しい技術やトレンドを取り入れていく必要があると考えられる。OUPもまた、辞書が辞書であるためにOED3の利用形態について考え始めているのかもしれない。
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