東京大学大学院理学系研究科化学専攻の大越慎一教授らの研究チームは、光照射により金属状態と半導体状態の間を室温で行ったり来たりできる金属酸化物を発見したことを明らかにした。

室温で光可逆的に相転移を示す金属酸化物(ラムダ型酸化チタン)。結晶構造中の色のついた球(赤および青)はチタン原子、白い球は酸素原子を表している

新たに発見された金属酸化物であるラムダ型五酸化三チタン(λ-Ti3O5)は、界面活性剤を用いた化学的ナノ微粒子合成法により作製することが可能で、室温で緑色レーザー光(波長=532nm)あるいは紫外線レーザー光(同355nm)を照射すると、金属的な性質をもつ黒色のラムダ型から半導体的な性質をもつ茶色のベータ型(β-Ti3O5)への光相転移(光誘起金属-半導体転移)を示すほか、その逆の相転移も青色レーザー光(波長410nm)を照射することで実現可能となっている。

緑色レーザー光と青色光のレーザー光照射によるラムダ酸化チタンにおける可逆的光相転移現象の写真。bの破線で囲った部分は緑色光を照射してβ相に転移した部分を、cの破線で囲った部分は青色光を照射してλ相に戻った部分をを示す

また、この光相転移は、ある条件下での1種類のパルスレーザー光を繰り返して照射するだけでも、λ相からβ相へ、β相からλ相へ、そしてλ相からβ相へと延々と繰り返し相転移することが可能である。

λ-Ti3O5の結晶構造およびレーザー光照射による相転移の色相とメカニズム。結晶構造中の色のついた球(赤および青)はチタン原子(構造的に異なる3種のチタン原子が存在)、白い球は酸素原子を表している

室温で光可逆的に相転移を示す金属酸化物は、この物質が世界で初めてとなる。ラムダ型酸化チタンは、チタン原子と酸素原子のみからなる単純な物質で、レアメタルなどを含まないため、安価かつ環境にも優しい物質となっている。また、粒径が10~20nm程度の微粒子で得られるため、次世代の超高密度光記録材料としても期待されるという。

λ-Ti3O5の合成方法。aは界面活性剤によって形成される2種類の逆ミセル溶液を反応させて、Ti(OH)4を形成させ、SiO2でTi(OH)4をコーティングした状態で水素気流下で焼成する。下図は焼成して得られたSiO2マトリックスに分散した20nm程度のλ-Ti3O5ナノ結晶の透過型電子顕微鏡写真。bは光触媒として用いられているアナターゼ型TiO2ナノ粒子を水素気流下で焼成するだけの方法

なお、このラムダ型酸化チタンは市販されている光触媒として用いられているアナターゼ型TiO2ナノ粒子を水素気流下で焼成するだけでも、得られることが分かっており、経済的コストおよび量産の両面から工業的にも有望であるとしている。