宇宙航空研究開発機構(JAXA)は、宇宙科学研究所を中心とした国際研究チームが太陽観測衛星「ひので」と米国航空宇宙局(NASA)の太陽観測衛星「RHESSI」が同時観測に成功した最大規模(Xクラス)の太陽フレアの解析を行い、フレアの白色光の起源が、高速に加速された電子によるものであることを解明した。

太陽フレアは、太陽表面付近のコロナから出るX線や彩層から出るスペクトル線を通じて主に観測される太陽系最大の爆発現象。特に強いフレアでは、白色光(可視連続光)として観測されることがあり「白色光フレア」と呼ばれてきた。しかし、白色光発光のメカニズムは、1859年の英天文学者キャリントンが白色光の増光として偶然発見して以来、謎に包まれていた。

これは、従来の地上観測では測光精度がそれほど高くなく、白色光での増光が認められる観測例がごく少数に留まっていたためであった。2006年12月14日に発生したXクラスの太陽フレアでは、ひのでの可視光磁場望遠鏡で白色光が確認されたのと同時にNASAのRHESSIにより硬X線が観測され、これらの画像を定量的に比較研究することが可能となった。

太陽観測衛星「ひので」の可視光磁場望遠鏡がとらえた太陽黒点。左が2006年12月14日22:07(世界時)のフレア前の様子、右が2006年12月14日22:09(世界時)のフレア中の様子で、フレア前に見られなかった白色光が見られる

解析の結果、RHESSIがとらえた硬X線、すなわちフレアによって高速に加速された電子の存在場所や時間変動などのふるまいが、ひのでがとらえた白色光のそれと極めて良く一致していたほか、40keV以上に加速された電子すべてが持つエネルギーが、白色光の発光に必要なエネルギーに匹敵していることが確認された。これは、太陽フレアによって高速に加速された電子が白色光の起源であることを示したものだという。

太陽観測衛星「ひので」の可視光磁場望遠鏡がとらえた2006年12月14日22:09(世界時)の白色光フレア(左)とその増光の光度分布(右)。右図では、フレア中の22:09観測の画像から、その前後の22:07と22:17の光度の平均を差し引くことで、増光成分だけを示している。赤い等高線はRHESSIがとらえた硬X線(40-100keVの高エネルギー電子)の分布

太陽フレアで加速される電子は上空のコロナで生成、その電子が太陽面近くの密度の濃い太陽大気に降り注ぐことで、硬X線などを放射する。しかし白色光は太陽の表面である光球から主に発光されると考えられており、また40keV程度の電子は光球から約1000km上空(彩層)までしか進入できない。ここに放射高度の矛盾があるが、この矛盾については、電子照射により一時的に密度の濃い層が光球より上空に作られ硬X線とともに白色光が発光する可能性などが考えられており、今回の解析結果により、40keV程度の電子が白色光発光において重要な役割が判明したことで、太陽大気中における加速粒子のエネルギー輸送のモデル化ができることが期待されることとなる。

上空のコロナで生成された加速粒子(電子)が太陽面近くの密度の濃い太陽大気に降り注ぐことで、硬X線などを放射する。白色光の発光もこの電子の降り注ぎによっている

"太陽フレア中において粒子がどのように加速されるのか"については、太陽フレア研究でほとんど理解されていない謎の1つだが、同モデル化はさらなる粒子加速の情報を得るための重要な課題となる。

2010年に入り太陽活動が徐々に活発化してきており、今後、ひのでを活用した太陽フレアの観測機会が増加することが予想され、新たな発見につながるものと、同研究チームでは期待している。