国立天文台は4月6日、地球の生命の源となるアミノ酸が隕石とともに宇宙から地球に持ち込まれた可能性を支持する観測結果を発表した。同発表は、これまで多くの科学者が主張してきた「地球上の生命は宇宙から飛来した隕石に含まれるアミノ酸に由来する」という説を裏付けるものと言える。

アミノ酸は互いに鏡像の関係にあり、L型(左型)とD型(右型)に分類されている。地球上の生命を構成するたんぱく質はアミノ酸から構成されているが、ほとんどが左型になっており、生命の起源と関わりがあるのではないかと考えられてきた。

宇宙空間でアミノ酸の偏りをもたらす原因に、円偏光という特殊な光による化学反応がある。国立天文台のメンバーをはじめとする日英豪米による研究グループは、円偏光をとらえる近赤外線偏光観測装置(SIRPOL円偏光モード)を開発し、オリオン座の星形成領域であるオリオン大星雲の中心部の円偏光撮像の観測を行った。

円偏光のイメージ図。青い矢印は電場を表し、赤線は電場の振動をたどったもの 資料:国立天文台

その結果、円偏光の広がりは太陽系の大きさのおよそ400倍以上に相当することがわかった。下図の黄色い部分が左回転の円偏光、赤い部分が右回転の円偏光である。

この円偏光の強い領域はオリオン大星雲でも有名な大質量星形成領域に位置している。この領域では複数の大質量星が生まれつつあり、IRc2天体と呼ばれる天体は太陽の20倍程度の質量を持つと考えられている。

オリオン大星雲の円偏光の赤外線による観測結果。黄色部分は観測者から見て光(電磁波)の電場ベクトルが左回りに回転している円偏光を表し、赤色部分が右回りの円偏光を表す 資料:国立天文台

なお、オリオン星雲では数百個の太陽系に類似した軽く若い天体が生まれているが、それらからは円偏光は検出されなかったという。

同グループはこうした観測結果から、「オリオン大星雲のような大質量星が生まれる領域に広がる円偏光に、原始太陽系星雲がさらされた結果、地球上の生命の素となるアミノ酸が"左型"になり、後に地球上に隕石と共に持ち込まれたことを示唆している」と推察している。これは、太陽系の近くに大質量星が存在していたとする地球上の隕石の研究に合致するという。

質量星形成領域の円偏光とアミノ酸、初期地球のイメージ図。左は大質量星形成領域の円偏光に原始太陽系が照射されている。中央は左図の原始太陽系雲の一部を局所的に拡大したイメージで、原始太陽系に円偏光が降り注いでいる状況を表している。右はアミノ酸の偏りをもたらす隕石が地球に降りそそぐ状況を表している 資料:国立天文台