東北大学の研究チームは、鉄系高温超伝導体において、「ディラックコーン」と呼ばれる特異な電子状態が実現していることを明らかにした。

固体中の電気伝導を担う電子は、通常、有限の質量をもって運動しているが、ディラックコーン状態と呼ばれる特殊な状態になると、電子は素粒子の一種であるニュートリノと同じ質量ゼロのディラック粒子となって固体中を運動すると理論的に予言されていた。このような状態にある粒子は光速に近い速度で運動し、英国の物理学者で1933年ノーベル物理学賞受賞者のPaul Adrien Maurice Dirac氏が提唱した相対論的量子力学に従っている。ディラックコーン状態は、これまで原子1層の炭素薄膜(グラフェン)や有機導体などでその可能性が指摘されていたが、それ以外の物質において実現するかどうかはよく分かっていなかった。

ディラックコーン状態における電子のエネルギー関係の模式図(バンド分散が直線的であるために電子の有効質量がゼロとなり、電子がディラック粒子的な振る舞いを示す)

今回の研究では、外部光電効果を利用した角度分解光電子分光と呼ばれる手法を用いて、鉄系超伝導体から電子を直接引き出し、そのエネルギー状態を高精度で調査した。結果、室温から温度を下げて、試料が反強磁性状態に変化した途端、電子の運動状態が変化、ディラックコーン状態が出現することを明らかにした。さらに、このディラックコーンの出現が、超伝導体内部の磁気的秩序と密接に関係していることも発見した。

光電子分光の概念図(物質に高輝度紫外線を照射して出てきた光電子のエネルギー状態を精密に測定する。矢印は反強磁性状態におけるスピンの向きを示す)

同研究チームでは、今回の研究成果は、ディラックコーン状態がグラフェンなどのごく限られた物質だけでなく、鉄系超伝導体のような超伝導物質においても発現することを示したもので、将来的には、超伝導物質の原子種類や組成などを工夫することでディラックコーン状態の電子を制御し、超伝導・超高速電子デバイスの実現などへの産業応用が期待されるとしている。