JAXA、スピン測定により巨大ブラックホールの自転速度を光速の22%と算出

 

ブラックホールには、太陽の30倍程度以上の重さの星が超新星爆発を起こしたあとに残される恒星質量ブラックホールや銀河の中心にある巨大ブラックホールなどがあるが、ブラックホールの性質は、質量、スピン、電荷という3つの物理量だけで完全に決まる。

ブラックホールの質量は、その周りにある星やガスの運動から測定されており、例えば銀河系の中心には「いて座A*」(あるいはSgr A*)という強い電波源があるが、そこには太陽の400万倍もの質量を持つ巨大ブラックホールがあると考えられている。しかしこの巨大ブラックホールがどうして生まれたのかは謎となっていた。

また、ブラックホールのスピンは周囲の時空に影響を与えるが、その効果が顕著に現れるのはブラックホールのごく近傍のみであり、現在の観測装置ではブラックホールの見かけの大きさが小さすぎてスピンの有無も時空構造から区別しにくく、結果としてブラックホールの近くから放射される光の性質を使ってスピンを算出していたが、不確定性が多いことが問題となっていた。

宇宙航空研究開発機構(JAXA)の研究グループは、これまでの測定方法の問題を解決するため、ガスがブラックホールへ落下する時にできる回転ガス円盤(降着円盤)の共振現象に由来する光度変動を測定することで、ブラックホールのスピンを求める方法を考案。これを用いて「いて座A*」のスピンの測定を行った。

降着円盤振動の想像図

さまざまな質量のブラックホールのスピンを比べる際には、ブラックホールの全角運動量(J)ではなく、スピンパラメータ(a*=Jc/GM2)という指標が用いられる。ここでcは光速、Gは重力定数、Mはブラックホールの質量で、ブラックホールが自転していない場合にはa*は0となり、ブラックホールが極限まで自転する場合、a*の絶対値は1になる。

光をほとんど出さないブラックホールの周囲には、ブラックホールを取り巻く円盤(降着円盤)があり、ガスがブラックホールの周りを回転(公転)しながら中心に向かって落ち込んでいく。この結果、ガス同士の摩擦により降着円盤は高温に加熱され、電波からX線、γ線などの電磁波を放射する。

ブラックホールの周りを公転するガスに、公転と異なる方向の運動が乱れとして加わると、元に戻そうとする復元力が生じ、一種の振動現象「エピサイクリック運動」が現れる。これはガスが1公転した時にこの振動が元の状態に戻るような関係(共振関係)にあるときには強め合い、乱れが大きくなる。特に、ガスの公転周期と乱れのエピサイクリック運動の周期が整数比1:2になる半径では強い共振が生じることとなる。この共振が起こる半径は、ブラックホールの半径の数倍以内だが、降着円盤の広い範囲が振動するため、さまざまな波長の電磁波に対して、ガスの公転と一致した周期をもつ光度変動として観測される。今回JAXAでは、この公転周期に対応する光度変動を特定することに成功することで、スピンの測定を実現した。

公転周期は、ブラックホールの質量とスピンによって変化するため、この関係式を逆に解くことでスピンを求めることができる。具体的には、ブラックホールの質量M、光度変動の振動数νを測定し、共振半径Rとスピンパラメータa*=c3([(2πνGM)-1-(R/GM)3/2]の連立方程式を数値的に解いて、ブラックホールのスピンを求めた。

この方程式をいて座A*の光度変動の測定結果に適用したところ、a*=0.44±0.08と、自転速度に換算すると光速の22%に相当する従来の多くの研究者の予想に反する小さな値が得られた。

恒星質量ブラックホールが巨大ブラックホールへ成長するには、回転する降着円盤を通じて莫大な質量のガスと膨大な角運動量を吸い込むため、巨大ブラックホールのスピンは大きくなるはずだが、今回得られた値は恒星質量ブラックホールで測られていた値と大差がないこととなる。

巨大ブラックホールのスピンは小さい質量のブラックホールに比べて大きくならない理由としてJAXAでは2つの可能性があるとしている。

1つは回転軸の向きに対して右回りと左回りの角運動量を絶妙な具合に吸い込んだ場合。もう1つは、ブラックホールの自転のエネルギーが抜き取られた場合。ブラックホールの自転エネルギーを効率良く抜き出す物理機構として、1977年に提唱されたブラックホールの自転エネルギーを電磁相互作用で抜き出す物理機構「ブランドフォード=ナエック機構」の用い、ブラックホールが「獲得する自転エネルギー」と「損失する自転エネルギー」が釣り合う時のスピンを計算してみると、測定結果に近いことが判明。巨大ブラックホールの自転エネルギーが抜き取られた結果、スピンが小さくなったと考えられるという結論にいたった。

なお、その抜き取られた自転エネルギーについては、宇宙ジェットのような銀河の中心で起こる爆発現象のエネルギー源になると考えられるという。光速に近い速度で噴出する宇宙ジェットは、銀河の星形成活動だけでなく、他の銀河の形成活動にも影響を与えることから、将来、他の銀河中心にある巨大ブラックホールのスピンを測定することによって、巨大ブラックホールの成長に加え、地球人類が住む宇宙がどのように進化してきたのかを知る手がかりが得られるようになるだろうとしている。

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