米国でiPhoneの独占販売を行っている大手通信キャリアの米AT&Tが、ユーザーに対してデータ通信の使用を控えるよう訴えており、場合によっては利用料に応じた従量課金も検討しているという。これは12月9日(米国時間)に米ニューヨーク市内で開催された投資家向けミーティングの中で米AT&Tモビリティ&コンシューマ市場部門プレジデント兼CEOのRalph de la Vega氏が語ったもの。3Gネットワークの逼迫が伝えられるなか、自社システム防衛をかけての一大転換点に差し掛かっている様子がうかがえる。

de la Vega氏のコメントは米Associated Press(AP通信)のほか、米New York Times紙などが伝えている。「われわれは顧客に対し、メガバイト級のデータがどの程度のものかを理解してもらわないといけない。われわれはユーザーがリアルタイムで情報を得るために日々システムの改良を進めているが、実際にはわずか3%のスマートフォンユーザーが(AT&Tの)ネットワーク容量の40%を利用している状態だ。こうした傾向はニューヨークとサンフランシスコといった都市に集中している」と、特定のユーザーがデータネットワークをほぼ占有している状態にあることを警告している。ニューヨークは世界的な大都市で人口密集度が高い。サンフランシスコは言わずと知れたシリコンバレーの地で、いわゆる"技術オタク"の集積地だ。

AT&Tのネットワークが特に逼迫しているニューヨークとサンフランシスコ。iPhoneを抱えたAT&Tの決断は!?

AT&Tの携帯ネットワークが非常に貧弱であることは広く知られている。筆者はサンフランシスコを拠点にニューヨークにも頻繁に顔を出しているが、建物の中で圏外になったり、 いきなり通信が途切れることは日常茶飯事で、ひどいときには街中の特定エリア一帯がすべて圏外になっていることも少なくない。こうした傾向は最近特に強くなっているように感じる。ライバルのVerizon Wirelessはこれを揶揄するかのような広告キャンペーンを展開しているし、その惨状は以前にAT&TがiPhoneの独占契約と引き替えに得たものとしてレポートしている。通話が途切れる"Drop Rate"の割合の高さも問題になりつつあり、DailyTechのレポートによれば今年9月時点でのニューヨークのDrop Rateは30%を超えているという。理由はいくつか考えられるが、iPhoneユーザーの増加や密集度の高さ以外に、動画や音声ストリーミングを行うアプリが多数したことで、帯域占有率が急増したという指摘が多数出ている。(参考記事:「AT&T to choke your iPhone」「AT&T May Fine IPhone Users for Using Too Much of Its "Unlimited" Data」)

いずれにせよ、de la Vega氏によればAT&Tのネットワークはすでに飽和状態で限界に達しており、既存の設備投資ペースでは追いつかないのが現状のようだ。その対策の1つがデータ使用量の抑制であり、これを周知するための戦略がポリシー変更による課金モデルの従量制への移行となる。導入時期や料金プランの詳細については不明だが、すでに"データ無制限"という考え方自体が転換点に差し掛かっているというのが同氏の意見だ。

米国ではiPhone契約にあたり、40ドル強の基本料金に20ドルをプラスすることでデータ通信が無制限に利用できるようになる。月々の支払額は音声通話とSMSの無料範囲を超えない限り、どんな使い方をしても月々70~80ドル程度の支払いで済む。今回のAT&Tの方針転換表明は、今後のAppleのiPhone販売戦略や他国の既存通信キャリアの方針に大きな影響を及ぼすことになるかもしれない。