新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と産業技術総合研究所(産総研)は、NEDOの産業技術研究助成事業の一環として、産総研の田中丈士研究員らが、アガロースゲルを充填したカラムを用いて、単層カーボンナノチューブ(SWCNT)を金属型と半導体型に高純度で分離する方法の開発に成功したことを発表した。

SWCNTは、炭素原子の配列により、金属的なものと半導体的な性質のものが存在。通常、合成するとこれらが1:2の割合の混合物となり、電気的応用には2つのSWCNTを分離する必要があった。ただし、従来の分離法は回収率や純度、コストなどに課題があり、大量に分離生成する段階ではなかった。

これまで産総研では、SWCNTをアガロースゲルに固め込んだ状態の「SWCNT含有ゲル」に対して電気泳動を行うと、高い回収率で金属型と半導体型に分離できること、そして、電場を用いないでも分離できる方法を開発してきたが、今回はこれを発展させ、高純度化と低コスト化を同時に実現する方法を発見した。

従来方法では、ゲルに吸着した半導体型SWCNTを分離回収するには、ゲルを溶かして取り出す必要があった。また、分離純度についても改善の余地があったが、今回、これらの課題を解決するため、カラムクロマトグラフィの手法を応用。アガロースゲルのビーズを充填したカラムに、SWCNTの分散液を添加した後、分離液を流すと、半導体型のSWCNTがゲルに吸着する一方、金属型のSWCNTはカラムを通り抜け分離回収される。

カラムに残っている金属型SWCNTを洗い流した後、適切な界面活性剤を含む溶出液をカラムに流すと、吸着していた半導体型SWCNTを脱離・溶出させて回収することができることも確認された。アガロースゲル充填カラムは平衡化を行えば再生されるため、再度分離が可能となり、しかも繰り返し使用しても分離精度は低下しないことも明らかになった。従来のSWCNT含有ゲルを用いて電気泳動や遠心分離で分離した試料と比べても、分離したSWCNTの純度が向上しており、半導体型SWCNTで95%、金属型SWCNTで90%となった(従来法ではそれぞれ95%、70%)。

アガロースゲルビーズ充填カラムを用いた金属型・半導体型SWCNTの分離。SWCNT分散液をカラムに通すと、赤みを帯びた金属型SWCNTは通り抜け(ピンクの太線)、緑色の半導体型SWCNT(緑の太線)のみがゲルに吸着。吸着した半導体型SWCNTは溶出液を用いて溶液状態で回収ができる。

高純度化が生じる理由として、以前のSWCNT含有ゲルを用いた分離では、長さ分布をもつSWCNTがゲルの網目構造の影響を受けやすく、SWCNTの電気的な性質だけではなく長さの違いも分離に影響し、純度の低下が生じていたが、今回の方法では吸着・脱着がゲル表面で起こるため、ゲルの網目構造の影響を受けにくく、主に電気的な性質の違いによって分離が起こったためと考えられている。

カラムを用いたSWCNTの金属型・半導体型分離の概略図

今回開発された分離法は、分離純度が高い密度勾配超遠心分離法で分離した試料に匹敵する純度が得られる上、ゲルの繰り返し使用や分離の自動化による人件費削減などにより分離コストは10分の1以下になると試算され、安価で高純度の金属型・半導体型SWCNTの供給が実現可能となるという。

aが同じゲル充填カラムを用いた1、2回目の分離後の光吸収スペクトル。bが1回目分離後のラマン散乱スペクトル。緑色の領域は金属型SWCNT、黄色の領域は半導体型SWCNTに由来するピーク

なお、産総研では、今後は、分散液調製の効率化・低コスト化が重要になってくるため、SWCNT分散液調製に関する研究も進めるほか、企業などと協力して、金属型SWCNTと半導体型SWCNTの大量分離に向けた研究を推進するとともに、分離したSWCNTの用途開発を行っていく予定としている。