NECは11月30日、独自の超解像技術「1枚超解像技術」を活用して、標準映像(SD)をハイビジョン映像(HD)並みに引き上げることが可能な超解像トランスコーダ「SRVC-1000」を発表した。価格は298万円(税別)で、12月24日より出荷を開始する予定。主なターゲットとしてキーテレビ局のほか、地方テレビ局やケーブルテレビ局といった放送事業者を狙い、3年で3,000台の販売を目指す。

超解像トランスコーダ「SRVC-1000」(左はDVI入出力機能の変換オプション)

デジタルテレビの普及に伴い、映像コンテンツのHD対応が要求されるようになってきているが、HD放送に対応した機器の設備導入にはコスト負担が大きいのが現実の問題として放送事業者に重くのしかかっている。また、その一方で、過去の約50年間におよぶ映像コンテンツはSD映像の資産として蓄えられており、これの有効活用なども模索されてきていた。

SD映像をそのままHD対応のテレビで放送しても、SDのままの映像しか流れない。また、アップスケーリングして流すという方法を採用しても、例えば2倍にアップスケーリングした場合、画素は4倍に増加し、ジャギが目立ち、かつ輪郭は中間色で補正されるため、ぼやけた状態となる課題があった。

SDをアップスケーリングしてもそのままではHD相当の画質にはならない

画素数は増えるが、中間色で補正されるため輪郭がぼやけた画像となる

超解像技術は、複数フレーム間の位置あわせ処理や予測フレームの合成を行った後、対象フレームの伸長を設定した割合に従い高解像度化、超解像を行う箇所(エッジ部など)に適用し、混色の分離などを行うことで、高解像度化するもの。一般的な複数枚超解像では10枚以上の連続フレーム画像を反復計算して高解像度の画像を生成するが、計算量が増大するため、サーバを複数台用いてもリアルタイムでの高解像度化は困難であった。

一方、1枚超解像は、1枚のフレームからアップスケーリングしてフレーム伸長処理を行うため、使用するメモリ量が少なくて済み、リアルタイムでの処理が可能という特長を持っている。

超解像技術の処理フロー

1枚超解像技術によりリアルタイムで高解像映像へ変換

今回のトランスコーダには、NECエレクトロニクスが開発した第3世代の1枚超解像度システムLSI「μPD9281GC」を搭載。このほか、NECが独自に開発した画像表示用LSIなどを搭載し、High Definition Serial Digital Interface(HD-SDI)やSD-SDIIなどの入出力に対応している。

「μPD9281GC」を搭載した評価ボード

NECの第三ネットワークソリューション事業部長の渡辺俊彦氏

NECの第三ネットワークソリューション事業部長の渡辺俊彦氏は、「例えば、中規模スタジオがHD映像を新規に放送しようと設備投資を行う場合、HDメインカメラ設備一式で1,980万円(660万円×3)かかると仮定。それを既存のSDカメラを流用しつつ、超解像トランスコーダでHD変換を行うことで、HD相当の映像の放送が可能となり、既存の設備も無駄にせずに済むというメリットが生まれ、急速なHD化への要求に対応しながら、余力の生まれた時に本来のHD対応設備へ順次ゆるやかに移行することができるようになる」とそのメリットを説明する。

1枚超解像技術をかける前(左)とかけた後(右)の画像比較(見えづらいが、超解像をかけると葉脈などの輪郭がはっきりする)

なお、同トランスコーダにおける、超解像技術そのものは、欧米各国でも活用が可能だが、放送における解像度が異なるため、今後はそれぞれの国々に応じたトランスコーダを用意、提供していく方向で検討を進めたいとしている。