エンジン停止の小惑星探査機「はやぶさ」 - 再び地球を目指して運用を再開

 

宇宙航空研究開発機構(JAXA)は11月19日、同9日にイオンエンジン(スラスタD)の停止を明らかにした小惑星探査機「はやぶさ」の対応策を発表した。

JAXAの月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタの川口淳一郎氏

同対応策の発表に際し、JAXAの月・惑星探査プログラムグループ プログラムディレクタの川口淳一郎氏が、今回のイオンエンジンの異常について、「スラスタCおよびDともに性能劣化が激しく、本来の性能であれば定格推力は8.5mNだが、5mN程度に推力を絞って運用してきた。しかし、1台5mNだけでは地球帰還に向けた推力を得られないので、10~11月を1台5mNで運用し、12月~2010年3月の間を2台計10mNで行こうと計画していたが、11月4日22時ころ、スラスタDの中和器が自動監視機能の上限値である50Vに達し自動停止(確認は運用開始直後の同23時40分ころ)、その後復旧作業としてエンジンの再点火を試みたが失敗した」と説明した。

その後、さまざまな角度から検証作業を行い、すでに運用を停止しているスラスタA/Bと同Dは単体でのエンジン稼働は不可能であることを確認したという。

AXA はやぶさプロジェクトチームの國中均氏

そのため、川口氏も「エンジン停止時は、来るべき物が来たという感じで、最悪の事態を想定し地球期間のスケジュールを2013年に延ばすことも考えた」(同)とする一方、はやぶさのマイクロ波放電式イオンエンジンの開発を担当したJAXA はやぶさプロジェクトチームの國中均氏などのチームに回路検討をしてもらい、「わずかな希望を託した」(同)という。

検討された方式は、各スラスタのイオン源と中和器を別々に切り離し、別スラスタのものと組み合わせるというもの。しかし、「当初スラスタBとDの組み合わせて試験を行い、失敗した」(同)とし、再度構成の検討や、回路変更にともなうタイムラインの組み合わせなどを変更、スラスタAの中和器(以降:中和器A)とスラスタBのイオン源(以降:イオン源B)を組み合わせることで、イオンエンジンとして稼働することが確認された。

今回行われた回路変更によるイオンエンジンAおよびBの接続図(中和器Aとイオン源Bを組み合わせ機能させることで推進力を確保。イオン源A、中和器Bも連動するため消費ガス量と消費電力は実質エンジン2台分となるが、推進剤となるXeの搭載料および太陽電池による発生電力量ともに問題ないレベルとしている)

「実際の作業としては、電力が厳しい状況にあったので、データ送信後、はやぶさの送信機の電源をオフにし、100W程度を捻出、送られたデータを用いてはやぶさ側が勝手に回路構成を変更し、その後、再び送信機の電源をオンにして地球との交信を行うという手段を採用した」(國中氏)という。交信遮断時間は15分程度、復旧後にはやぶさからのデータが送信されていることを確認し、回路変換が成功したことを確かめたとする。

各スラスタのイオン源と中和器の組み合わせ

この回路変換という手法については、「電気回路上はダイオードを用いてバイパスできるようにしてあったが、この機能自体は地上での試験ができていない機能であり、本当に万一のためにとっておいたもの。軌道上で初めてやって成功した」(河口氏)と、本当に緊急的な手段であったことを強調する。

ちなみに地上での試験ができなかった理由は、通常は宇宙の電位と機体の電位を0にするよう計算して中和器が電子を放出していたものを、この回路を用いると、中和器が放出する電子量の計算ができないため、はやぶさそのものに電位差を生じさせることで、中和器から電子を放出する仕組みになることに起因しており、地上ではどこかしらが地面と接地(グランド)することから電位差を生じさせることができなかったため、としている。

実質AとB、2つのスラスタを使用するため、推進剤および電力は1つのスラスタを用いる2倍となる計算となるが、推進剤は20kg以上残っており、地球帰還には(2つのスラスタ使用時でも)5kg程度の使用のみで済むほか、太陽に近づきつつあるため、電力の問題も回避できるとする。

現在のはやぶさの状況は、「11日に試験を実施し、翌12日より試験運転を実施、19日現在まで段階的に推力を高めてきており、必要推力となる6.5mNに到達。これにより、2010年3月中ころまでの約3,000時間、この推力を維持できればスラスタA+Bのみの運用で2010年6月の地球帰還に必要なΔV量(約200数十m/s)が得られる見込み」(國中氏)とする。

地球からの距離は1天文単位(約1億5,000万km)程度で、火星のすぐ近くを地球に向けて航行しており、「すでにスラスタA+Bで計算上の必要推力を達成しており、スラスタCの運用については今のところ考えておらず、バックアップに回す予定」(川口氏)とする。

ただし、今回の回路変換という手法は地上試験のデータがないため、JAXAとしても何が起きるかは予測がつかず、「電圧が高くなれば中和器の劣化が早まる危険性がある」(國中氏)ともしており、「年内にスラスタA+Bに異常が生じれば2010年の地球帰還は困難になる」(川口氏)との予測から注意深く運用を続けていくとする。

なお、今回の対応策について川口氏は「ようやく動き始めたところなので、予断を許さない状況というのが現状。本当にさまざまな要因(中和器Aがほぼ無傷で残っていた、地球に近づいてきている場所で太陽光による発電がある程度できたなど)が幸運に作用して何とかなったというのが本音。動いているほうが奇跡的」と語っており、今後も2010年6月の地球帰還達成に向けた方策を行っていくとしている。

「はやぶさ」の1/10スケールモデル

小惑星探査機「はやぶさ」

はやぶさのイオンエンジン(左上から右下に向けてスラスタA~D。画像はイオンエンジン3基稼働時の想像図。現状はスラスタBのみ稼働している)

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