産業技術総合研究所は、半導体先端テクノロジーズ(Selete)、大日本スクリーン(DNS)、チノーと共同で、Siウェハによる半導体製造で用いられるフラッシュランプアニール(FLA)装置向け表面温度モニタリングシステムを開発したことを明らかにした。

従来、Siウェハの不純物拡散などでRTA(Rapid Thermal Annealing)が用いられてきたが、先端プロセスで用いられるFLA法ではドーピングされたイオンが拡散することを防ぐためウェハ表面を0.001秒程度の間に1,300℃付近まで一気に昇降温する処理が行われており、処理条件の最適化のためには、0.001秒以下での加熱時間の制御および加熱温度の数℃レベルでの制御が求められており、加熱処理中のウェハ表面の温度変化を「その場」で観測できる計測技術が求められていた。

今回開発された技術は、加熱用キセノンランプによる背景放射光の対策として、キセノンランプとウェハの間に水フィルタ膜を設置。これは、水が赤外光の一部(水の吸収線波長帯)を吸収する特性を利用し、キセノンランプの光成分のうち、赤外光の一部を除去し可視光を透過させるものである。Siウェハは可視光を吸収し加熱されるため、キセノンランプの加熱光源としての機能を損なうことはない反面、赤外放射温度計の観測波長帯を水の吸収線波長帯と良く一致させることで、キセノンランプの発光の影響を受けず正確な温度測定を実現したというもの。

また、温度変化によりウェハ表面の放射率が変化するという問題に対応するため、偏光反射測定を利用した放射率補正法が導入されている。放射温度測定と反射率測定を同時に行うため、偏光検出型の赤外放射温度計と0.001秒以下で点滅可能な高輝度参照光源を開発。開発された赤外放射温度計は、p偏光(ウェハ表面に対して垂直な成分)、s偏光(ウェハ表面に対して平行な成分)のそれぞれの強度を測定でき、参照光源の消灯時にはウェハ表面からの熱放射を測定し、点灯時にはウェハ表面で反射した参照光源からの光が加わったものを測定する。これにより、熱放射および反射光のp偏光、s偏光成分が得られ、ウェハ表面の放射率の決定とともに、熱放射の強度も測定でき、両者から放射率補正を行ったウェハ表面の温度測定が可能になるという。

フラッシュランプアニール装置で加熱中のウェハ表面温度の実測値(0.001秒程度の間に、ウェハ表面温度が1100℃以上まで昇温し、その後急速に温度低下している様子が、実測データとして確認できる)

産総研では、今回開発された技術を用いた表面温度モニタリングシステムをFLA装置に搭載すると、0.001秒程度で高速に昇降温する表面温度変化を、"その場"測定することが可能となるため、半導体プロセスの微細化技術の高度化に貢献するとともに、産業分野における各種高温プロセス温度モニタリング技術としての応用が期待できるとしている。なお、同技術は、現在DNS、チノー両社にて、実用化および製品化に向けた技術開発が進められているという。