Macworld基調講演でのPhil Schiller氏

Google VoiceのiPhoneアプリのApp Store登録申し込みが拒否されたことが大きな話題になり、米連邦通信委員会がGoogle、Apple、AT&Tの三者への経緯確認に乗り出すなど、iPhoneアプリ審査の不透明さを指摘する声が増加している。こうした逆風にAppleは沈黙を保っているが、技術ライターのJohn Gruber氏がブログに掲載したiPhoneアプリ審査批判に対して、AppleのシニアバイスプレジデントであるPhil Schiller氏が経緯を説明するメールを送ってきた。Gruber氏はいくつかの疑問点への回答として、Schiller氏の許可を得た上で、その一部をブログで公開している。

Gruber氏は4日に、App StoreがiPhone/ iPod touch用辞書アプリ「Ninjawords Dictionary」の登録申し込みを数度にわたって却下したプロセスに疑問を投げかけるコラムを公開した。Ninjawordsは、シンプルで軽快に動作するのが特徴。辞書コンテンツにWiktionary.orgを利用し、新しい言葉にも対応する。Ninjawordsを開発したMatchstick Softwareが最初にApp Storeに登録を申し込んだのは5月13日だった。動作が不安定だったため2日後に不可となった。不具合を修正して再度申し込むと、今度は一般向け辞書に不適切な言葉が含まれると再度拒否された。AppleからのメールではiPhone OS 3.0のパレンタルコントロールの利用を勧めていたが、Matchstickは不適切と思われる言葉を省いて再挑戦。それでも"17+"に該当するとして3度目の拒否となった。最終的に17歳以上の条件付きで7月13日にApp Storeに登録された。

Gruber氏はNinjawordsを「すばらしいアプリだ」と評価した上で、同アプリの審査では機嫌が悪いときに誰でも使ってしまうような言葉まで不適切とされたと指摘。そもそも辞書の中身を検閲するような行為自体が行き過ぎであり、"17+"であれば、辞書の内容が問われる必要はないとした。

このコラムを読んでSchiller氏は、すぐにApp Storeのレビューチームに経緯を確認したという。Gruber氏へのメールでSchiller氏は、App Storeで提供されている他の辞書アプリにも汚い言葉が含まれているのを例に挙げ、Ninjawordsの場合は"誰もが使う"という範囲を超えた攻撃的なスラングや人を動揺させるような言葉が含まれていたのが問題視されたと説明している。またAppleはNinjawordsの開発者に対して辞書の中身の変更を求めなかったと指摘。"17+"が利用できるようになるのを待てなかったMatchstickが、自身の判断でいくつかの言葉の削除に乗り出したとしている。それでも不十分だったため、最終的には"17+"となった。

Ninjawordsの場合、タイミングが悪かった。パレンタルコントロールが存在しない時に登録を申請して内容が問題視され、辞書の中身を修正しているうちに"17+"が利用可能になってしまった。iPhone OS 3.0への過渡期にうまく対応できなかった。

ただ"17+"がなかった頃だったら、NinjawordsはiPhone/ iPod touchユーザーに提供できなかったのだ。パレンタルコントロールが追加されたおかげで、Ninjawords本来の形で提供できるようになった。開発者のチャンスは広がったと言える。

Schiller氏は「ユーザーと開発者を結ぶ革新的なアプリケーション・プラットフォームを構築するのがAppleの目標」とし、「目標を達成する上で、われわれは常に完璧ではないだろうが、少しでも近づけるように努めている。失敗があれば、そこから学び、改善へとつなげる」とメールを結んでいる。

Gruber氏はNinjawordsと他の辞書アプリを比較した上で、審査で不適切と見なされる言葉について「(現状では)レビューチームによるポリシー遂行が十分に一貫していない」とあらためて疑問符を付けた。しかしながらSchiller氏がメールの最後に示した改善への姿勢に対して、「プラットフォームの長期的な成功のために、われわれが必要と思う軌道修正にAppleのリーダーシップが取り組んでいる」と評価している。