NTTと東京工業大学は7月27日、半導体加工技術を用い「電荷量子ビット」を集積化し、複数種の2量子ビット演算が可能な「多機能量子演算素子」の開発に成功したことを発表した。

従来、2量子ビット演算を行うためには、何らかの相互作用で2つの量子ビットを結合する必要があり、それらは1素子で1種類の演算しか実現されていなかった。今回は、1つの素子で「制御反転演算」や「交換演算」などの複数の機能的な2量子ビット演算をそれぞれ1ステップで実現する多機能量子演算素子の開発に成功したものとなっている。

「多機能量子演算素子」の電子顕微鏡写真(半導体表面に作製された微細なゲート電極に電圧を印加することにより、4つの量子箱を形成することができる。上側の2つの量子箱は第1量子ビット、下の2つの量子箱は第2量子ビットとして機能し、右上の電極に矩形電圧パルスを印加することで、二量子ビット演算を実現した)

"制御反転演算"は、第2量子ビットの値が「1」であるときにのみ、第1量子ビットの情報を反転する演算。ゲート電圧をある値に設定すると第2量子ビットの値を「1」に準備することができる。NTTらは、この状況で、第1量子ビットに高速電圧パルス信号を印加することで、第1量子ビットの情報が「0」と「1」の間を周期的に変化する「条件付きコヒーレント振動」の観測に成功した。振動の半周期分の電圧パルスを印加することで「制御反転演算」を実現することができ、1周期分の電圧パルスを印加すると(制御反転演算を2回行うと)元の状態にもどる。

"交換演算"は、2つの量子ビットの情報を交換する演算で、2量子ビットの情報が「01」と「10」の情報を入れ替えることにより実現できる。制御反転演算の時と異なるゲート電圧条件において第1量子ビットに高速電圧パルス信号を印加すると、第1量子ビットの情報が「0」から「1」に変化するのと同期して第2量子ビットの情報が「1」から「0」に変化し、逆に第1量子ビットの情報が「1」から「0」に変化するのと同期して第2量子ビットの情報が「0」から「1」に変化する現象の観測に成功した。

2つの量子ビットの値が相関をともなって振動することから、「相関コヒーレント振動」と呼ぶことができ、このように2つの量子ビットの情報が逆位相で周期的に変化する場合、振動の半周期分の電圧パルスを与えることによって"交換演算"を実現でき、1周期分の電圧パルスで元の状態にもどることが可能であり、周期的な変化を示すことは、量子コンピュータの演算素子として利用可能であることを示している。

コヒーレント振動測定例(第1量子ビットを流れる電流を観測すると、電圧パルスの時間に依存したコヒーレント振動が観測される。条件付きコヒーレント振動であるAは、第2量子ビットの電子が右側にあるときに第1量子ビットの電子が振動するもので、半周期(または1.5周期)分のパルスによって「制御反転演算」を実現できる。相関コヒーレント振動時のBは、両方の量子ビットの電子が相関をもって振動するもので、半周期分のパルスで「交換演算」を実することが可能だ)

さらに、別のゲート電圧条件にすると、2つの量子ビットの情報が同位相で周期的に変化する「相関コヒーレント振動」も実現可能であり、従来考えられていなかった新しいタイプの2量子ビット演算も実現できることが示されたという。

これにより、「条件付きコヒーレント振動」と「相関コヒーレント振動」の観測により、複数の2量子ビット演算をそれぞれ1ステップで実行できる多機能量子演算素子が実現されることとなった。なお、NTTらは、このような複数の機能を有する量子情報デバイスは、量子コンピュータの重要な要素技術となると考えており、量子もつれ状態などの量子力学の世界を半導体チップのなかで実現できるようになると期待しているとしており、半導体ナノデバイスの制御性・集積性を利用して、今回の成果を発展するとともに量子コンピュータの実現を目指すとしている。