米ケーブルサービス・プロバイダ大手Cablevisionが計画しているリモートストレージDVRシステムの合法性が問われた裁判で、米最高裁判所が映画スタジオやTVネットワークの上告を棄却する決定を下した。

DVR(デジタルビデオレコーダー)は、日本でいうHDDレコーダーを指す。米国では、ユーザーがTiVoのようなDVR機を用意するか、またはDVR機能付きのセットトップボックス(STB)をケーブル会社からレンタルしている。Cablevisionが導入を目指すリモートストレージDVRシステムは、ユーザーが録画予約したTV番組を各家庭のDVR機ではなく、Cablevisionのサーバに録画する。各家庭には同サービスに対応するSTBを設置するのみで、DVR機があるかのように録画した番組をブラウズし、DVR機と同様に再生できる。Cablevisionとしては、トラブルの多いHDD搭載STBを各家庭に設置するよりもサービス管理が容易になる。またケーブルサービスを契約するだけで簡単にDVR機能が利用可能になるため、同サービスが普及すれば米国家庭の半数にDVR機能が浸透すると同社は見ている。これは現在の倍のユーザー規模であり、これによりターゲットを絞り込んだインタラクティブな広告の提供が活発になると期待している。

これに対して米国のメジャーTVネットワークおよびParamount PicturesやTwentieth Century Foxなどの映画スタジオが、リモートストレージDVRはDVRよりもビデオオンデマンドに近いと指摘。Cablevisionがコンテンツをバッファリングし、サーバに録画した上でユーザーに提供するのは、未許可でコピーした番組プログラムを再配信するのに等しいとして、ライセンス料の支払いを要求した。

この訴訟はリモートストレージDVRという新しいサービスの可能性だけではなく、ストレージの場所、ユーザーが任意でクラウドに保存したコンテンツの取り扱いなどが絡む。ネットワーク時代のフェアユース・コピーの問題にも影響する。そのためIT産業や家電産業、通信産業が団結してCablevisonを支持し、ハリウッドと対峙する構図に発展していた。

2007年3月に連邦地裁がコンテンツプロバイダー側の言い分を認めたのに対し、2008年8月に控訴裁判所はリモートストレージDVRサービスがユーザーのフェアユースの範囲内であるという判断を下した。最高裁での上告審では、ネットワーク・ベースのサービスが著作権問題につながるリスクを認めながらも、Cablevisionのケースは裁判所が道すじをつけるのに適切なタイミングではないという法務局の判断を重視して上告棄却に至った。

Cablevisionは早い段階でリモートストレージDVRサービスを実現する考えを示している。またケーブル会社以外でも同様のサービスが実現するかもしれない。ただし法務局や最高裁は直接的な侵害はないとしているのみで、リモートストレージDVRのようなサービスを全面的に認めたわけではない。今後の展開によっては、全く逆の結果に落ち着く可能性もある。