運転中の携帯メールは飲酒運転より危険!?──こんな実験が米国で話題になっている。これは米国のあるクルマ雑誌が実施したロードテストで、巡航速度や運転手、運転中の行動事項を変更することで、それらが反応速度に及ぼす影響を計測したものだ。それによれば適度な飲酒よりも、携帯操作による反応速度低下の影響のほうが大きいという。現在、米国ではクルマ運転中の携帯操作が禁止されている地域はごく限られるが、今後より規制強化に向かうひとつの根拠になるかもしれない。

運転中の携帯メールは、飲酒運転と同等以上に危険?

本テストを実施したのはクルマ雑誌の米Car and Driver.comで、同誌編集長のEddie Alterman氏(37歳)とインターンで同誌に参加しているJordan Brown氏(22歳)の2名がテスターに選ばれ、米ミシガン州オスコーダにあるOscoda-Wurtsmith Airportの誘導路を借用して走行テストを行った。使用した車は大型SUVのHonda Pilotで、ドライバーはフロントガラスに設置されたLEDの点滅を確認してブレーキを踏む。これを、受信メッセージを読む「Reading」、実際にテキストを打ち込む「Texting」、飲酒の影響下にある「Impaired」の3種類のテスト項目に分け、35mph (約56km/h) / 75mph (約120km/h)の2種類の速度での走行後、ブレーキ反応までのタイミングを計る。携帯メールの送受信にはBlackBerryやiPhoneで採用されているQWERTYタイプの端末が利用される。米国では飲酒運転における法的基準値は血中アルコール濃度の0.08%以上と定められており、これを超える数値までアルコール摂取を行っている。各項目でのテストは5回ずつ行われ、極端にはみ出した値は除外される。

実際の結果は、同誌がWeb上で公開しているデータ(2ページ目)を参照してもらうのが早いだろう。テスト項目によって個人差はあるものの、アルコール摂取時の反応速度は基準値(Baseline)とおおむね離れていないにも関わらず、携帯操作が絡んだ項目では反応速度の大幅な低下が見られる。反応速度の低下は制動距離(Extra Distance Traveled)に影響を及ぼす。低速では大きな影響にはならないものの、高速走行では制動距離が大幅に伸びることになる。例えばAlterman氏がTextingをしながら70mphで走行した場合、70フィート(約21.3メートル)もの距離が停止に必要となっている。あくまで一例ではあるものの、適度な飲酒より携帯操作のほうが危険ということを示すものだ(飲酒運転を擁護しているわけではない)。また同誌では「同種のテストが学術面からあまり行われていないのは不思議」ともコメントしている。

米国において、車の運転中の携帯操作(音声通話/メール送受信含む)はたびたび問題となっている。2008年7月から米カリフォルニア州で実施された「クルマ運転中の携帯操作は禁止で、ハンズフリー操作以外は取り締まりの対象」といった決まりに代表されるように、州や地域によってはすでに禁止されている。同様の規制はカリフォルニア州以外に、ニューヨーク州、ニュージャージー州、コネチカット州、ワシントン州、ワシントンDCといった州や特別行政区をはじめ、イリノイ州シカゴ市やニューメキシコ州サンタフェ/ アルバカーキ両市などの細かい行政区単位で導入がみられる。だが一方で、規制に抵抗する勢力も変わらず存在しているようだ。例えば今年6月25日に米バージニア州で同種の規制を行う法案が可決される一方で、同月22日には米アリゾナ州で規制法案が否認されている。全国で一律禁止となっている日本と比較し、地方行政の力が強い米国ならではの事情が垣間見える。