東京大学の中村 栄一教授および科学技術振興機構(JST)らによる研究グループは、非晶質物質の有機半導体材料を開発したことを明らかにした。また、同材料を用い、「ホモ接合」構造の有機EL素子を作製し、蛍光・リン光の両方を用いたEL発光および青・緑・赤の三原色EL発光に成功したことも明らかにした。

亜鉛を用いた分子内環化を鍵反応として、酸素原子を含む縮環π電子共役系化合物「ベンゾジフラン」に含窒素縮環π電子共役系原子団「カルバゾール」を結合させることで、非晶質材料の両極性材料(CZBDF)を開発。CZBDFの非晶質薄膜を用いて、飛行時間法による正孔および電子移動度を評価したところ、それぞれ電界強度2.5×105V/cmにおいて、3.7×10-3cm2/Vs、4.4×10-3cm2/Vsを達成した。

アミノ基を有するp型ベンゾジフラン化合物(左)と、新たに開発されたカルバゾール置換両極性ベンゾジフラン化合物(右)

ホモ接合型有機EL素子は、ガラス基板上のITOを陽極とし、その上に順次、150~200nm程度の有機薄膜、陰極のAlを真空蒸着法で作成。この有機薄膜は、CZBDFを単一のマトリックスとして、陽極から30nmの範囲は無機酸化剤(五酸化バナジウム)との共蒸着によるp型ドーピング、陰極から20ナノメートルの範囲は還元剤(金属セシウム)との共蒸着によるm型ドーピングが施されており、これにより電極からCZBDFへの電荷注入ならびに電荷移送を容易にしている。

上がホモ接合有機EL素子の構造(i層ドープなし)、下が5層構造のヘテロ接合素子の模式図

また、酸化剤および還元剤がドープされていない厚さ50~100nmの中間層に青色・緑色蛍光色素、赤色リン光色素をそれぞれドープすることで、三原色発光も実現したという。中でも、緑色蛍光素子は、6万カンデラ/m2の輝度で、蛍光有機EL素子効率の理論限界である5%に迫る外部量子効果4.2%を達成した。

i層(中間層)に色素ドーピングをしたホモ接合有機EL素子の電圧-外部量子効率特性(左)と、素子発光の様子(右)

これらの結果は、CZBDFが持つ3つの性質によるものと考えられている。3つの性質は、1つ目が高バランスかつ高移動度を持つ両極性であること、2つ目がHOMO/LUMOエネルギー差が大きい(3電子ボルト程度)ワイドギャップ材料であること、3つ目が発光色素に効果的な電荷を閉じ込めることが可能なこと、としている。

同研究チームらでは、ヘテロ接合よりも単純なホモ接合で三原色発光が達成されたことで、新たな材料の開発や素子構造の最適化検討を図ることで、将来的には低コストで作製可能な高効率の低消費電力有機ELディスプレイや照明機器の実現が期待されるほか、有機薄膜太陽電池など他の有機エレクトロニクスデバイスの実用化にも応用可能であると期待、有機半導体デバイスの構造のパラダイムシフトが加速していくものと予測している。