国立天文台の田村陽一氏と東京大学の河野孝太郎氏らが率いる日米メキシコ国際共同研究チームは、地球から約115億光年彼方に、恒星の材料(ガスや塵)に深く埋もれた爆発的な星形成活動を通して成長し、やがて非常に重い巨大銀河へと進化する銀河種族であると考えられている「モンスター銀河」が群れ集まっている様子を捉えることに成功したことを明らかにした。

モンスター銀河は地球がある銀河系(天の川銀河)の1000倍に迫る勢いで星を形成しており、これまでも単独での発見はあるが、30個のモンスター銀河を1つの領域で発見したのは初めてという。

発見された場所は、みずがめ座の方向に位置する原始銀河団領域「SSA22」で、すばる望遠鏡などの観測によりライマンアルファ輝線銀河と呼ばれる若く小さい銀河が密集し、原始銀河団を形成していることが知られていた。

研究チームが観測したSSA22原始銀河団の位置。みずがめ座のある方向の0.5度四方に115億光年にライマンアルファ輝線銀河が密集している(出所:国立天文台Webサイト)

今回、研究チームはチリ北部、標高4800mのアタカマ高地に設置されたサブミリ波電波望遠鏡を用いて観測するプロジェクト「ASTE(Atacama Submillimeter Telescope Experiment:アタカマサブミリ波望遠鏡実験)」の新しいミリ波カメラ「アステック」を活用。これにより、0.1平方度を超す広域画像を取得することに成功し、ライマンアルファ輝線銀河の過密地帯が存在する場所にモンスター銀河群を発見したという。

研究チームがASTEで発見したモンスター銀河の一部の拡大画像(赤色部)と赤外線画像(緑色部)およびハッブル宇宙望遠鏡による可視光画像(青色部)(出所:国立天文台Webサイト)

群れ集まるモンスター銀河のイメージ図。背景に広がる雲状の物質が大規模シミュレーションによって得られた実際の暗黒物質の分布。暗黒物質の多い場所に銀河(白い点)が形成し、特に過密な場所で選択的にモンスター銀河が生じている。右上はモンスター銀河のより詳細な想像図(出所:国立天文台Webサイト)

銀河の密度が高いということは、暗黒物質の密度も高いことを意味しており、現代の銀河形成理論では、暗黒物質の密度が高いところで巨大銀河が誕生することが予想されている。そのため、同研究結果は、この銀河形成の理論予想に一致していることになる。

左がASTEにより発見されたモンスター銀河(爆発的星形成銀河)の数密度分布。白い枠はASTEで撮像した視野で、およそ満月1つ分の大きさ。白丸は爆発的星形成銀河の位置を示している。右は同じ視野における115億光年彼方のライマンアルファ輝線銀河の数密度分布で、白点が銀河の位置を示す。青く塗った部分はライマンアルファ輝線銀河の個数が多いことが知られており、暗黒物質が集中している場所であると考えられている場所(出所:国立天文台Webサイト)

なお、研究チームは他の天域に対しても大規模な観測を同様に行っており、こうした観測結果を基に、爆発的星形成を行うこれらモンスター銀河が普遍的に銀河の過密地帯に分布しているのか、どの程度の時代からモンスター銀河が誕生しており、どのようにして現在の大質量銀河へと進化するのか、などを明らかにしたいとしている。

爆発的星形成銀河とライマンアルファ輝線銀河の間の「相互相関関数」。2つの銀河種族が似た分布をしている場合のみ、相互相関関数は正の値を示しており、8分角(約5000万光年)以下で正の値を取っており、この範囲内で爆発的星形成銀河とライマンアルファ輝線銀河が寄り添って誕生していることがわかる(出所:国立天文台Webサイト)