文部科学省の国際研究拠点である数物連携宇宙研究機構(IPMU:Institute for the Physics and Mathematics of the Universe)は、超弦理論の計算に、3次元の結晶模型を用いる方法を開発、これによりブラックホールの内部構造を「紙と鉛筆」で解明したことを発表した。

超弦理論は、一般相対性理論と量子力学を統合し、知られている素粒子現象を基本原理から導出するために必要なすべての材料を含んでいるため、この理論を用いればブラックホールの量子情報が解読できることが期待されている。

今回の研究では、幾何学を用いることで、ブラックホールの量子状態の1つ1つが、3次元の結晶の融け方に対応することを示した。例えば、氷の直方体の塊は温まると、角から水の分子が取れていき、融けていくこととなるが、これと同じく、ブラックホールのない時空間を、まだ融けていない立方体の結晶とすると、ブラックホールの量子状態は結晶の融解状態と一対一に対応し、結晶が融けるほどの大きなブラックホールが存在することを示すこととなる。

そして、結晶の1つ1つの原子の大きさが無視可能な"熱力学的極限"においては、滑らかな時空間となり、Stephen William Hawking(スティーブン・ホーキング)博士が予言したとおりの量子情報数が再現できることが、「紙と鉛筆」で証明されたという。これにより、ブラックホールの1つ1つの状態を結晶の融け方として特定し、ブラックホールの内部構造の理解を促進させることにつながるとしている。

ブラックホールのない時空間は、まだ融けていない結晶に対応する

ブラックホールの量子状態は、結晶の融解状態と一対一に対応する

結晶が融けるほど、大きなブラックホールになる(結晶の原子は時空間の最少単位)

熱力学的極限でなめらかな時空間になり、ホーキング博士の予言どおりの状態数が再現される

なお、この研究は、幾何学の先端の話題である「量子不変量」の理論を関係があり、IPMUでは、この成果を踏まえ、2009年5月18日~22日に国際研究集会「新しい不変量と壁超え」を開催する予定としている。