厚生労働省は12日、医薬品のネット販売規制などについて議論する検討会の第2回会合を開いた。前回の会合では、ネット販売の是非の議論自体を否定するような意見が多く出たが、今回の会合では状況が変化。ネット販売継続について継続派と慎重派の双方が意見を述べたうえで、「安全な仕組みができるなら前向きに検討を」「ネット販売が駄目だとは言わない」などの意見が相次いだ。

12日開かれた「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」第2回会合

2009年6月に施行される予定の厚生労働省の省令では、一般用医薬品のネット・通信販売に関して大幅に規制。施行されると、解熱鎮痛剤、風邪薬、胃腸薬、水虫薬、妊娠検査薬、漢方薬などのネット販売ができなくなる。

一方厚労省では、医薬品の販売方法を再度議論するため、舛添要一厚労相の指示により、「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を設置。この検討会で医薬品のネット販売の規制を緩和、もしくは撤廃の結論が出れば、省令の再改正に道が開ける。

だが、2009年2月24日に開かれた初会合では、ネット販売の是非の議論自体を否定するような意見が多く出た。そのため、構成員で楽天会長兼社長の三木谷浩史氏が「なぜネット販売の議論を避けるのか」と声を荒げる場面もあった。

三木谷氏は「ネットのほうが安全な販売できる」

今回の第2回会合では、事前に用意された資料を構成員が説明し、その後議論するという形式がとられた。

最初に発表を行った三木谷氏はまず、医薬品のネット販売継続を求める署名が85万件に上っていると説明。さらに、今回の検討会以前の厚労省の議論において、「医薬品のネット販売について十分な議論がなされたとは言えない」と指摘。

約900万人の人がネット販売を含む医薬品の通信販売を利用しており、利用者のライフラインとなっていると述べた上で、「購入者の利用履歴も分かるネット販売のほうが(店舗よりも)医薬品を安全に販売できる」と強調した。

また、一部の業界団体が、政党などに政治献金を行っているとも指摘。「既得権益のために規制を行っていいのか」と訴えた。

また、日本オンラインドラッグ協会理事長の後藤玄利氏は、3月4日に行われた、「一般用医薬品通信販売継続を求めるフォーラム」で説明された、医薬品を安全にネット販売するための業界ルール案について説明。大量購入を防ぐための対策なども十分に行えるとし、「インターネットだからこそできることも多くある」と強調した。

薬剤師会会長は「対面の原則によって安全は担保」

これに対し、全国薬害被害者団体連絡協議会の増山ゆかり氏は、今回検討会に関し、「電話やインターネットでの個人認証をどうするかについて議論すべき」と主張。また、「まずは(薬局などで医薬品が買えずに)困っている人の状況について、より具体的な内容を明らかにすること」も求めた。

日本薬剤師会会長の児玉孝氏は、「(医薬品販売の)安全性を担保するには、目で見て顔を見て販売する対面販売によって担保することが必要」と主張。障害者や高齢者、妊婦ら医薬品を薬局で買えなくて困っている人に対しては、配置販売業者の活用や家族らが代わって買いにいくことで解決できるのではないかと述べた。

また、日本チェーンドラッグストア協会副会長の小田兵馬氏は、「薬が買えなくて困っている人に関しては、行政サイドで対応すべき問題」と述べた。

日本置き薬協会常任理事長の足高慶宣氏は、「現在行われているイーコマースの状況と将来可能になるであろうイーコマースの議論を混濁すべきではない」とし、現段階での医薬品のネット販売の規制は必要との考えを示した。

ネット販売の議論を前向きに考える意見相次ぐ

第2回会合終了後、「前回に比べて建設的な議論が行われた」と述べた楽天の三木谷氏

ここまでは前回と同様、ネット販売継続を求める構成員とそれに反対する他の構成員という構図だったが、慶應義塾大学総合政策学部教授の国領二郎氏の発言で議論の流れが変わった。

国領氏は、「皆さんの意見をいろいろ伺ったが、まず一致点を考えるべきではないか」と問題提起。「リスクコミュニケーションをそれぞれの業態で行っていくべきだが、どの業態でも完璧なものはなく、リスクコミュニケーションをどう担保していくかが大切」と主張。

「特に小売では、どの業態も消費者のニーズに押されて出てくるものなので、それを抑えることは適切でない。少子高齢化の背景もあり、医薬品業界もこうしたニーズに応えていくべきではないか。ある時点でいきなり一つの業態を凍結させるのはむしろ良くない」と発言した。

これに対し、日本OTC医薬品協会 医薬品販売制度対応協議会 委員長の北史男氏は、「情報提供は一方的であってはならず双方向でなければならない。双方向のコミュニケーションができ、安全性が担保されれば、インターネットによる販売もいいのではないか」と述べた。

また、慶應義塾大学薬学部教授の望月眞弓氏も、「インターネットで安全な仕組みができるなら、前向きな方向で検討すればいいのではないか」。青山学院大学経営学部教授の三村優美子氏も、「インターネットによる販売が決して駄目だと言っているのではなく、問題を整理していく必要がある」と述べ、医薬品ネット販売の議論を進めていくことについて前向きに考える意見が相次いだ。

これらの意見を受け、座長で北里大学名誉教授の井村伸正氏は、「多くの意見が出たので、とりあえず論点整理をしてから次回以降については議論をしていきたい」と述べた。検討会の事務局を務める厚生労働省の担当者も、「次回以降については、関係者のヒアリングなども検討したい」と話した。

検討会終了後、楽天の三木谷氏は記者団に対し、「前回に比べて建設的な議論が行われた。医薬品を購入した人のフォローなどはネットにほうが優れており、大量購入の防止(※)などの安全策を積極的に行っていきたい」と述べた。

※ 睡眠薬などを大量に購入し自殺を図る人も多いため、こうした薬の購入には厚生労働省により数量制限基準が設けられている。

ネット販売継続派と規制派が完全な物別れに終わった感のあった第1回会合に比べ、第2回会合では議論自体は否定しないという方向になったといえ、第3回会合でどのような議論がなされるかが今後の議論の方向性を決めることになりそうだ。