米Microsoftは「Windows 7」のベータ版を導入した一般テスターの最終的な数を明らかにしていないが、少なくとも同社が必要とするだけのテスターは集まったようだ。ピーク時には15秒に1通のペースでMicrosoftにフィードバックが届いたという。これはWindows 7に対する、ユーザーの関心の高さを裏付けるものである。その一方でベータプログラムの規模拡大と共に、テスターの意見を製品に取り入れる姿勢がMicrosoftに見られないという批判も舞い込むようになってきた。このような声に対して、シニアバイスプレジデントのSteven Sinofsky氏がWindows 7におけるフィードバック対応の現状をエンジニアリングブログで説明している。

2000カ所近いバグを修正

Windows 7 β版のフィードバック送信フォーム

Windows 7のベータ版のユーザーは自動的に、オプトイン形式で匿名データをMicrosoftに提供するCustomer Experience Improvement Programに参加することになる。これらのテレメトリー・データに加えて、これまでに合計50万以上、1日平均500以上のフィードバックレポートがMicrosoftに送られてきた。それらを基にクラッシュを引き起こす可能性があるWindowsコードのバグが、すでに2000カ所近く修正された。テスターの間ではWindows 7の安定性が評価されているが、パブリックベータ開始から6週間の間に信頼性はさらに高まったのだ。また1000万以上のデバイスのインストールが記録されており、その75%以上がパッケージで提供されているドライバで動作している。残りについても、Windows Updateや製造元のWebサイトへのリンクで対応できる状態に近づいている。米国時間の24日にはWindows 7向けにInternet Explorer 8の信頼性を高めるアップデートをリリースした。ユーザーの声は確実にWindows 7に反映されている。だが、大規模なパブリックベータの段階では開発チームのスタッフと1対1のやりとりにならないところに、テスターからの不満が噴出しているようだ。

フィードバックからサンプリング・データ

製品開発はあらかじめ設定されたスケジュールの範囲で、限られたリソースを使って成果を最大限化する作業と言える。数多くの可能性から、優先順位、緊急性、効果やメリット、コストなどを考慮して「やるべきこと」を取捨選択する。フィードバック対応も同じで、全ての声に対応するのは不可能である。しかしSinofsky氏は「われわれは全てのコメント、ブログポスト、ニュース記事、MS Connectのレポート、Send Feedbackアイテム、テレメトリーから送られてきたデータなどに、ひとつ残らず目を通している」と強調する。その一方で「肯定的な態度を(テスターに)返すだけなら、言うはやすしだ」とも述べる。それならば、ベータプログラムの規模を拡大しすぎではないかという疑問が出てくる。

その点についてSinofsky氏は、今日のMicrosoftにおいてフィードバックがWindowsユーザー全体の利用動向を探るサンプリング・データとして機能していると説明する。現在のようにユーザーの声を直接的に収集する手段がなかった昔、製品開発上の決断を下すためにエンジニアは会議室に集まり、いくつかのグループに分かれて延々と議論を続けた。最後まであきらめない、体力的にもタフなエンジニアが勝ち残るという結果に陥りがちで、それでは非効率的だし、ターゲットユーザーの要望と合致するとは限らない。そこでSinofsky氏がWindowsの前に手がけていたOfficeでは、90年代前半から「ユーザーがどのように製品を利用しているか?」を徹底調査し始めた。その結果、テーブルの意外な用いられ方、スペルの自動修正の可能性、ほとんど使用されていない機能などが浮き彫りになり、それらのデータを開発の方向性を決める道先案内にした。この手法がWindows 7にも採用されており、開発チームは決断を下す際にサンプリング・データにフォーカスするという。

フィードバックからのサンプリングについては、データが示す方向の信頼性を疑問視したり、革新的な新しい機能を生み出しにくいという指摘がある。それらの欠点も認めた上でSinofsky氏は「データは製品開発のゴールを示すものではないが、決断をサポートする重要な要素であり、顧客の関与という点でも意味がある。Windows 7を顧客にもたらす上でエコシステム全体に作用する」とメリットを強調する。