三菱電機は2月25日、ミリ波を用いた通信システムの送受信モジュールで使用されるMMIC(Monolithic Microwave IC)をチップセット化したことを発表した。

今回、三菱電機が開発したGaAs MMICチップセットの一覧

60GHz帯多ビーム切り替え用チップセット群(並び順は上記の一覧に準じている)

44GHz帯ビーム走査用チップセット群(こちらの並び順も上記の一覧に準じている)

現在、移動体通信システムでは、動画配信などのマルチメディア化に伴う大容量通信へのニーズが高まっているが、3Gや無線LANの市場拡大により、周波数の逼迫が生じてきていた。そのため、これまで使用されていなかった周波数帯域としてミリ波帯の周波数の活用が総務省で検討されるなど、新たな周波数帯域の利用が模索されている。

なお、ミリ波は、直進性が高いため、セキュリティを確保しやすい反面、伝播損失が大きく、ビームの幅が狭いため、広範囲に展開することができないという弱点がある。現在、そうした問題は、ある程度の角度を持たせることが可能な多ビーム切り替えアンテナやビーム走査と呼ばれる技術を用いることで、解決が可能だが、これらの技術を実用化するためには、小型かつ高出力、低雑音な送受信モジュールを開発する必要があった。

移動体通信などの普及により、周波数帯の逼迫などが生じている

今回、チップセット化に成功したMMICは、化合物半導体であるGaAsを用いて製造されたもので、60GHz帯の多ビーム切り替え方送受信モジュール向けに、高出力増幅器2種、低雑音増幅器1種、ミキサー1種、スイッチ1種が開発され、44GHz帯のビーム走査型送受信モジュール向けに、高出力増幅器3種、低雑音増幅器1種、ミキサー2種、種位相器1種が開発された。

多ビーム切り替え方式とビーム走査方式の概念図

三菱電機 情報技術総合研究所 光・マイクロ波回路技術部 部長の宮崎守泰氏

GaAsは、SiGeやSiによるミリ波帯チップと比べ、出力電力を高くすることが可能であり、「60GHz帯の増幅器の出力ではSiGeと比べ約4倍となる19dBm(80mW)を実現するほか、増幅器の雑音指数についても、同比で数dBのNFの減少が可能」(同社情報技術総合研究所 光・マイクロ波回路技術部 部長の宮崎守泰氏)という。

材料別のミリ波用トランジスタ性能比較(GaNの方がGaAsより出力電力は高いが、学会レベルで30GHzがようやくといったところのため、実用化にはまだ時間がかかる)

すべての回路をチップセット化したことにより、「送受信モジュールの容積を従来品比で1/2にすることが可能になる」(同)ほか、ミキサーでは、使用周波数の1/4の局部発振波を抽出して使用。それを4倍して用いることにより、帯域外近傍の不要信号レベルを従来に比べ約30dB抑圧することが可能となった。「これにより、従来不要信号を除去するために必要だったフィルタ回路の簡素化が可能となり、モジュールの低コスト化が可能になった」(同)とする。

開発したGaAs MMICで取り入れた技術各種

また、ミリ波では、スイッチの切替漏れが発生する問題があるが、不要な信号の漏れを最少とする回路構成を採用したことにより、通過損失を60GHz帯域用の4分岐スイッチでは従来のミリ波以下の周波数で用いられているMMICスイッチや位相器に比べ1dB削減となる2.8dB、44GHz用居相器でも同1dB減となる10.8dBを実現した。

回路構成を最適化することで、不要な信号の漏れを最小化した

同社では、2009年度の夏から秋頃をめどに総務省委託研究として、航空機と管制室の間での通信試験を行うことを予定しているほか、鉄道などの公共機関の無線通信機器向けとして適用を図っていくとしている。

なお、同製品は、基本は自社内のソリューションへの適用を予定しているが、サンプルとして外部のカスタマに提供する場合の価格は、少なくとも数万円以上になる見込みとしている。