国立天文台などの研究者チームは、すばる望遠鏡に搭載された補償光学つきコロナグラフ撮像装置 (CIAO) により、太陽系から650光年離れたおおかみ座の「HD142527」と呼ばれる若い恒星の周囲にあるガスと塵の円盤(原始惑星系円盤)の表面に、固体の水である氷が存在していることを直感的に確認したことを明らかにした。

観測対象となったHD142527とその周辺の星図(出所:国立天文台)

これまで、300個以上の太陽系外の惑星が発見されているが、地球同様、表面に海を持つ惑星は発見されてこなかった。その一方で、原始惑星系円盤とその周辺の領域には、氷が存在する兆候が見つかっていた。

ただし、氷が円盤にあるのか円盤を取り巻く構造 (エンベロープ) にあるのかは良く分かっておらず、今回、中心にある恒星から発せられた光が円盤の表面で散乱されて生じる散乱光に刻まれた光の兆候を調べることで、氷の存在の確認を行った。

今回の観測の概念図(円盤の中心にある恒星から発せられた光が、円盤の表面にある塵で散乱され、一部の光が観測者の方向に向かう。光を散乱した塵の性質が、散乱光のスペクトルに刻まれることとなる)(出所:国立天文台)

具体的には、氷の分子が、赤外線の波長3.1μmの光を特に吸収することに着目。円盤表面にある氷が光を散乱する場合、散乱光の内、波長3.1μmの光だけが吸収され、他の波長の散乱光に比べて暗くなることが理論的に予想される。また、その一方で、氷を含まない塵による散乱光は、そのような吸収は起きないため、それを比較することで、円盤表面に氷があるかどうかの見分けが付くようになるという。

左の画像が波長3.08μmでのHD142527の原始惑星系円盤による散乱光のコロナグラフ観測画像(円盤を真上から見た図だが、4方向に伸びる構造は、望遠鏡の副鏡支持機構の影響であり、実際の天体構造とは異なる。上が北、左が東となっている。右は、対象領域の散乱光の画像)(出所:国立天文台)

HD142527の質量は太陽の2倍弱程度、年齢は約200万年程度と推定されている。今回、波長3.1μmと3.8μmでの同恒星周囲の円盤の画像を取得。各散乱光の強さを、以前の観測で確認していた波長2μm当たりの散乱光の強さと比較し、波長3.1μmの散乱光のみが暗くなっていることを確認した。これにより、円盤表面に氷が存在することが確認されたという。

HD142527周囲の円盤の想像図(内側の小さな円盤と、外側の大きな円盤の二重構造で、外側円盤は2本のバナナを向かい合わせたような形で、さらにその外側に1本の腕状構造があることが分かっている)(出所:国立天文台)

今回、氷が発見された場所は、中心の恒星から100AU(地球-太陽間の距離が1AU)以上離れた場所で、実際に惑星が生まれるのは、中心の恒星にもっと近いところと考えられていることから、今回の氷は、惑星の材料よりも彗星の材料となる可能性が高いとしている。

なお、恒星に近い部分については、今回撮影された画像からは、恒星の光の影響のため、様子が良く分かっていないという。理論的には、恒星からの光に加熱されてしまうことから、氷が蒸発してしまうことが考えられている。氷が存在できる境界線を「スノーライン(雪線)」と呼ぶが、その位置が、惑星の誕生する様子や、どのように惑星に水をもたらすのかに影響を及ぼすと考えられており、今後の観測では、同ラインの位置の特定を目指すとしている。