独Infineon Technologiesとセイコーエプソンは、共同で次世代のA-GPS(Assisted-GPS)テクノロジ製品「XPOSYS」として1チップGPS製品「PMB2540」を開発、製品化したことを発表した。

「PMB2540」のチップイメージ

インフィニオンテクノロジーズジャパン 通信事業本部 RFソリューショングループ 部長代理の佐藤修氏

GPS搭載機器は、2008年で全世界で12億5,200万台(内携帯電話が2億3,800万台)だったものが、2012年には15億5,300万台(内携帯電話は5億4,300万台)に増加することが見込まれている。特に「日本では、携帯電話にGPSの搭載が必須となっており、伸びていくことは明白」(インフィニオンテクノロジーズジャパン 通信事業本部 RFソリューショングループ 部長代理の佐藤修氏)とするほか、PNDについても、2013年にはGPS搭載型が(全世界で)1億台を突破することが見込まれており、大きな市場となるという。

今回の2社の協業について佐藤氏は、「InfineonからはRFやミクスドシグナルに関する1チップ化技術を、エプソンからはすでにNTTドコモの携帯電話に搭載され、NTTドコモ向け端末のスタンダードとなっているGPSに関するハードウェア、ソフトウェア、サーバ技術などをトータルに持ち寄ったことで、世界最高クラスの1チップソリューションを提供することができるようになる」と、その意義を語る。

InfineonとエプソンのGPSにおけるそれぞれの特徴

一般的なGPSチップは、ベースバンド(BB)チップとRF部分のチップを別々に製造、それを1チップ化して提供していた。一方、Infineonは、130nmのフルCMOSプロセスを用いて、BBとRFを統合した1チップソリューション「Hammerhead」を提供してきた実績を持つ。

今回は、エプソン側からGPSエンジンなどホスト側の位置計算ソフトおよびBBの回路が提供され、InfineonのRF部分と統合、1チップ化が図られた。使用されたプロセスは65nm CMOSプロセスで、製造はInfineonが提携しているファウンドリにて行われた。

今回開発された1チップソリューションのブロック図(見づらくて申し訳ないが、赤い枠内がエプソン担当、黒い枠内がInfineon担当の領域)

同チップの性能は、感度が従来のHammerheadと比べ-160dBmから-165dBmへと向上したほか、消費電力が約50%低減となる9mW(トラッキングモード時)、スタンバイ時は6μWを達成。チップサイズも従来の7.0mm×6.0mmから2.8mm×2.9mm×0.6mmへと小型化され、26mm2のプリント基板内に実装することが可能となった。また、外部部品点数も従来25点必要であったのが、9点で済むようになったという。

Infineonが強みを持つ部分を提示したXPOSYSの性能データ

エプソン側が強みを持つ部分を提示したXPOSYSの性能データ

ちなみに、-165dBmの感度は「内蔵したLNAのみで実現している」(同)ほか、「携帯電話のTCXOを活用できることに加え、C-planeとUser-planeの両方に対応可能」(同)という。

XPOSYSには、使用状況に応じた「Normal Tracking Profile」「Performance Profile」「Power Saving Profile」の3つの設定が存在する。ソフトウェア上で設定が可能であり、基本は立ち上がり時に選択を行うが、アプリケーションの動作中にも動的に変更することが可能だという。なお、3つのプロファイルは、Normal Tracking Profileが精度と速度の両立を重視、Performance Profileが高層ビル群などの場所でも位置特定を行える高感度モード、Power Saving Profileが受信電波の良い状態での使用を想定したモードで、電力の消費を抑制できる設定、としている。

使用シーンに応じた3つのモードを用意

セイコーエプソンのGPSビジネス推進部 部長の北沢豊氏

エプソンのGPSビジネス推進部 部長の北沢豊氏は、「これまで2チップを1チップ化して提供してきたが、携帯電話メーカーはチップサイズ、性能、コストのいずれもが見合わないと満足しない。Infineonと共同で開発できたことで、さらなる小型化、高感度化ができ、新たな携帯電話にも搭載しやすくなった」と語る。

また、-165dBmの感度については、「全衛星同一信号強度としての-165dBmであり、これまで-160dBm程度が同条件での測定限界だったものが伸びた。しかも、TTFF(Time To First Fix)に必要な時間はオープンスカイ(-130dBm)の条件なら従来比で倍以上早い1秒以下で済む。これにより、ユーザーは情報取得に待つ必要がなくなるほか、消費電力も消費電流の削減とともにTTFFも早くなりトータルでは1/4~1/6の低消費電力化となった」(同)とする。

従来品とXPOSYSのTTFFの比較

トータルの消費電力比較

今後、両社は2010年後半から2011年ころを目標に、さらなる高性能、高感度、高精度などを実現したGPSチップの開発を進めるほか、より低コストを目指した「combo GPS」の開発を進めるとしているが、「現在、GPSチップの業界は、再編が進んでいる。生き残るためには、より強いメーカー同士で手を組んで、カスタマ/ユーザーに満足してもらえる製品を提供していくことが重要」(同)と、低コスト品でも性能向上も併せて行っていくとした。

次世代GPSチップのロードマップ

なお、同製品は、日本市場でのサンプル出荷を2009年3月末、量産出荷を2009年第3四半期にそれぞれ開始する計画としている。

真ん中が従来エプソンが提供していたGPSチップで、右がXPOSYS。並べて見ると、その小ささが際立つ