カリフォルニア州ロングビーチで開催中のTEDで、Bill & Melinda Gates FoundationのBill Gates氏がフィランソロピストとして米国時間の2月4日に講演を行った。マラリア問題解決と教育者育成に対応できる市場形成を訴え、その中でマラリアが現実の問題であることを実感してもらうために、器に入れていた数匹の蚊を会場に放った。

Gates Foundationはマラリアワクチン開発を支援し、ワクチンを広く行きわたらせるプロジェクトの規模拡大のサポートに努めている。Gates氏によると、マラリアも耐性を強めており、継続的な警戒と新たなツールの開発が欠かせない。しかしながらマラリアの場合は分布地域が熱帯・亜熱帯に偏るため、ベッドネットやワクチン開発などへの先進国からの大規模な投資に結びつきにくい。そこでマラリアが"世界規模で取り組むべき深刻な問題の1つ"であることを伝えるために、Gates氏は台上の器に手を伸ばした。

その時の様子をTED会場からライブブロギングを行っていたKatrin Verclas氏は「ゲイツ氏が数匹の蚊を解き放った瞬間、TED参加者たちはマラリア感染の恐怖を体験した」と記している。プレゼンテーションに使われたのはマラリア原虫に感染する心配のない蚊だと思われるが、前の方の席に座っていたeBay創設者のPierre Omidyar氏は、その瞬間に「これまでだ。これ以上ここには座っていられない」とTwitterに書き込んだ。

教育者育成についてGates氏はメンター効果の重要性を強調した。優れた若者の育成と経済的な競争力の維持が相関関係にあるにもかかわらず、今日の米国では30%の若者が学校からドロップアウトしている。マイノリティコミュニティに絞り込むと50%に数値が上がる。Gates Foundationは、これまで小規模な学校にフォーカスした投資を行ってきたが、今後は教育改善の土台づくりとして教師の育成にも力を入れるという。

Gates氏いわく、優れた教師は教えるのが上手い。では、何が教師の教える技術を磨くかというと"経験"である。だが現状では、教師それぞれが経験を積みながら技術を向上させている。これでは時間もコストもかかる。それを短縮するのが経験の共有になる。例えばチャータースクールを運営する非営利団体KIPPは、教師から継続的にデータを集め、教師のトレーニングやプログラムに活用して成功を収めている。米国のほとんどの学校区では、このような授業データの収集や共有が行われていない。教師の団体が強く反対しているケースもあるという。だが、今や高度なテクノロジを使わなくても教師は授業を記録できる。それを共有し、フィードバックを得ることで、教師は自らのパフォーマンスを効率的に引き上げられるとGates氏。経験の共有を実現する仕組み作りへのプライベートセクターの参入を促した。