アイルランド政府産業開発庁は14日、都内で「アイルランド研究開発セミナー」を開催し、同国における科学・工業技術の研究開発を促進するための施策について、来日中のブライアン・カウワン首相がその重要性を説明した。

ブライアン・カウワン アイルランド首相

カウワン首相は、アイルランドの近年について「農業国・低開発・低資本・高人口流出と言われるような国から、ハイテク・知識経済・研究開発・イノベーションの国へと改革を遂げた」と振り返る。かつてアイルランドは西欧諸国の中でもとりわけGDPが低く、国外への移民による大量の人口流出に苦しむ国だったが、1990年代以降は海外直接投資の誘致、ハイテク分野の振興などを国策として積極的に推進し、1990年代後半には世界でも有数の年10%を超える経済成長を実現した。現在では一人あたりGDPで、米国や日本を大きく上回る世界5位(2007年。統計により若干前後する)につけている。

このような成長を持続するため、同国では2006年から2013年にかけての国家戦略として「Strategy for Science, Technology and Innovation(科学技術イノベーション戦略)」を打ち立てた。カウワン首相は「(現在のような)経済的な苦しさを極める時期においても、イノベーションへの投資はぜいたく品ではなく、将来に向けた国際的な競争力を確立するためには必須要素であると考えている」と話し、アイルランドを"世界トップクラスの研究開発センター"にするため、2013年までの間にさまざまな投資を行い、各分野での世界的な企業を同国に誘致していくと強調した。

日本企業との間での最近の協業としては、プレイステーション3のプロセッサとして知られるCellに関した研究開発を行う「ソニー・東芝・IBMコンピタンスセンター(STI Center of Competence)」のヨーロッパ拠点がダブリン大学トリニティカレッジに設置されたこと、欧州自動車業界向けのハプティック(触覚)ユーザーインタフェース等を研究するためアルプス電気の設計チームが同国内に設置されたこと、アイルランド国立大学ゴールウェイ校の応用光学部門と島津製作所の間で画像処理技術に関する共同研究が開始されたことなどを紹介した。いずれも、政府や関連機関などによる優遇措置の適用、資金提供等の支援を得て行われているプロジェクトだという。

また、カウワン首相は「最も価値のある天然資源は人材、つまりアイルランド国民の才能であると考えている」と話し、この10年間で教育環境の整備など知識分野に費やした歳出は、EU諸国の平均が毎年約3%の伸びであったのに対し、アイルランドでは同約10%であったというデータを紹介した。高等教育機関の卒業生に占める理科系出身者の割合はEU内で最も高く、また15歳未満の人口の割合もEU内で最高であり、同国では今後より質の高い研究開発が行われることになるとの展望を示した。

同首相は講演の結びで「政府は、グローバル企業がアイルランドでビジネスを展開してほしいと願っている。そのためにはイノベーションとクリエイティビティが花開くことができる社会であることが必要であり、未来に向けてもそれを満足できるような戦略を採っていく」と述べ、知識産業の先駆者である日本との関係をより強化し、今後より多くの日本企業がアイルランドで事業を展開してくれるよう、呼びかけていく姿勢を強調した。